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2013年6月7日、東京都内にてNPO/NGOを対象に「組織基盤強化ワークショップ」を開催し、32団体の代表や事務局長、スタッフなど40人が参加しました。
パナソニックは、持続可能な社会の実現に向けて「育成と共生」を活動理念に、「環境」と「次世代育成支援」を重点分野として、グローバルに企業市民活動に取り組んでいます。社会課題の解決の促進に向けて市民活動が持続的に発展していくためには、NPO/NGOの組織基盤強化が必要であるとの認識のもと、2001年に「Panasonic NPOサポート ファンド」を設立し、NPOの中間支援組織と協働でNPO/NGOの組織基盤強化を応援してきました。
現在、パナソニックは5つの組織基盤強化プログラムを展開しており、その一つが「組織基盤強化ワークショップ」です。
毎年、NPOサポート ファンドの公募時期に開催し、今年度は認定特定非営利活動法人 日本NPOセンターと協働して、東京での開催を皮切りに広島、新潟、茨城、宮城の全国5カ所で実施します。
開催にあたって、パナソニック ブランドコミュニケーション本部 CSR・社会文化グループの東郷琴子が挨拶をしました。
「本日のワークショップでは組織基盤強化についての座学や先輩団体の取り組み事例、ワークなどを通して、その重要性や必要性を感じていただき、ご自身の団体を見つめ直すことで次の一歩を踏み出すきっかけにしていただければ幸いです。多くの気づきや学びを得られる有意義な時間になることを願っています」
パナソニック 東郷琴子
“積み荷を運ぶ船”の安定に必要なのは 人的基盤・財政基盤・ガバナンスの確立
続いて、日本NPOセンターの常務理事・事務局長の田尻佳史さんが「組織基盤の強化とは」と題する講座を行いました。
「組織基盤強化とは、たとえるなら個々のプロジェクトという積み荷を運ぶ船をしっかり安定させることです。営利のための組織ではないNPOは未来に成し遂げたいこと(ミッション)、そのために目指すべき方向性(ビジョン)を定め、それらを達成するために何を大切にして日常の活動を進めるか(バリュー)をはっきりさせておく必要があります」
田尻さんはさらに、国内に約4万7千団体も存在するNPOのうち6割ほどが年間予算500万円未満であることを挙げ、組織基盤強化のためには「人的基盤・財政基盤・ガバナンス(組織統治体制)」の確立が重要であることを強調しました。
「財源には会費や寄付金、助成金といった応援や共感の意味合い支援性が強いものから、自主事業や委託事業のように対価性が強いものまで、それぞれの財源に特徴があります。どの財源に重点を置くかによって組織の姿も変わってくる。今お金がないから助成金に頼ろうではなく、2、3年後を見据えた資金計画が求められます」
また、組織を動かす「理想のリーダーシップ」については「専制型・民主型・放任型」の3タイプがあり、団体の成長や状況に応じて使い分けるのが望ましいと述べました。
次に、組織基盤強化が具体的に組織の発展につながっている事例として、すでにNPOサポート ファンドの助成を受けている2団体から報告がありました。
日本NPOセンター
常務理事・事務局長
田尻佳史さん
<事例発表1>特定非営利活動法人 プレーパークせたがや 大垣内弘美さん
3年目の今は、どんな困難も皆で乗り越えていけそう
「1979年から活動を続け、現在、世田谷区内で4カ所の常設プレーパークを運営しています。プレーパークは子どもたちの『やってみたい』という気持ちを大切にした遊び場で、プレーリーダーと呼ばれる有給スタッフが、保護者や地域住民と協働で運営しています」
2005年にはNPO法人化し事業も拡大しましたが、人材や資金の不足、経営について語る機会の不在といった課題が浮上してきました。背景には、組織に関わる80人の間で中長期計画が共有されていないという現状がありました。そこで2011年からNPOサポート ファンドの助成を受け、組織基盤強化に取り組みました。
「1年目は外部専門家や他団体の方に入ってもらい、プレーパークに来る保護者などにもヒアリングを行い、第三者の目で法人の健康状態を診る組織診断を実施しました。その結果、事務局の強化や世話人である保護者の負担軽減といった優先課題が見えてきました。そこで重点事業を絞って赤字運営からの脱却を図るべく、中期計画を策定しました」
そして2年目は、人材育成のための仕組みづくりに取り組みました。
「30年のノウハウを活かして、ボランティアを育成する研修センターを創設すると同時に、プレーパークの面白さを知ってもらうワークショップも開催しました。これまで何度も『もう駄目かも』と思いましたが、3年目に突入した今は、どんな困難も笑いながら乗り越えていけそうな気がしています」
プレーパークせたがや
大垣内弘美さん
<事例発表2>認定特定非営利活動法人アースウォッチ・ジャパン 伊藤雪穂さん
課題解決の時間を生み出す習慣が組織に根づいた
「1971年にアメリカで始まった国際環境NGOです。日本では1993年以来、一般市民を各地へ派遣し、野生動物や植物の野外調査を行っています。プロジェクトの参加者を増やすためにWEBサイトのリニューアルをしようと、2011年にNPOサポート ファンドに応募しました」
ところが、採択前に行われた助成事務局による訪問インタビューの中で、「WEBサイトのリニューアルより先に取り組むべきことがあるのではないか」との指摘を受け、会員200人、元会員800人を対象に、活動に関するアンケートを実施しました。
「その回答から優先度の高い課題を選定し、中長期計画を立てました。具体的に行ったこととしては、活動報告がないとの声を受けて年次レポートを発行し、気軽に参加できるイベントがほしいという要望に応えて、日帰りイベントを企画しました。会員制度を見直し、研究者や学生と連携が取りやすい東京大学の中に事務所を移転し、認定NPOにも承認されました」
その結果、プロジェクトの参加者は増え、会員の皆さんも課題を共有し、協力を申し出てくれるようになりました。そこで助成2年目には、3人しかいない事務局スタッフの負担を軽減するために、ボランティア主導型の運営システムを構築することになりました。
「ボランティアの皆さんが編集や翻訳などを担ってくれたおかげで、事務局はプロジェクトの開発に時間をかけられるようになりました。組織基盤強化はかなり大変な作業ですが、課題解決の時間を生み出す習慣を組織に根づかせることができました」
アースウォッチ・ジャパン
伊藤雪穂さん
4人1グループのワークショップで 組織の抱える課題をもう一歩深いところまで究明
続いて、個人ワーク、グループワークを行いました。
最初の「ワーク(1)」では席の近い人と4人1グループになって自己紹介をし、この日学んだことを共有しました。
続く「ワーク(2)」では、ピンクのポストイットに「自分の組織で感じている基盤強化の具体的な課題」を5つ書き出し、活動分野や経験年数の近い人と4人1グループになって、互いに発表しました。これを模造紙に貼り、意見を出し合う中で「もう一歩踏み込んだ深い原因」を引き出し、青いポストイットに書き上げていきました。
あるグループでは「人の入れ替わりが激しく組織が不安定」「後任に口で伝えていくだけで研修システムが確立されていない」などの課題が出され、根底には「目標の共有」「素直に聞けないプライドの克服」といった課題が横たわっているとの指摘がなされました。
NPOサポート ファンドの助成テーマは、 客観的な視点を取り入れた組織基盤の強化
最後に、現在公募中の「NPOサポート ファンド」の2013年募集について説明を行いました。
「2013年募集の助成テーマは、『客観的な視点を取り入れた組織基盤の強化』です。第三者による組織診断を実施後、結果を踏まえてご自分たちで組織基盤強化の計画を策定いただきます。
そしてその計画に対してさらに第三者の力を借りてブラッシュアップしたうえで、組織基盤強化の取り組みを実行していただきます。ここで言う第三者とは、応募いただくNPOの皆様が選定するNPOの支援機関や経営支援の専門家のことを指します。なお、ご自分達で課題分析が的確に行える団体については、組織診断からではなく、組織基盤強化の計画を第三者とともにブラッシュアップするところから応援することも可能です。
環境・子ども分野で社会課題の解決に取り組むNPO/NGOを対象に、7月16日から7月31日まで募集しています」
- 組織診断とは 「組織診断のススメ」
- 組織診断から組織基盤強化に取り組んだ事例
- NPO砂浜美術館-世代交代を機に「組織診断」。ミッション・ビジョンの明文化、中期計画策定、そして新しい事業の創造へ
- 組織基盤強化の取り組み事例
- ICAN(アイキャン)-地方に存在することの強みを活かし、大きく成長。4年間で有償スタッフ1人から10人、収入は4倍の1億円超に成長
ワークショップに参加して
ワークショップ終了後、参加者に感想をうかがいました。
日本自然保護協会(NACS-J)
岩橋大悟さん
組織内で実は共通の目標が設定されていなかったことに気づかされました。
各団体が抱えている課題はよく似ていて、交流を深められてよかったです。
A SEED JAPAN
梅本一成さん
ほかの団体と話せる場がなかなかないので、悩みを共有するいい機会となりました。
組織の中でさっそく共有したいと思います。
このあと会場を移し、講師、事例発表者、参加者が夕食を共にしながらの交流会が行われました。
組織基盤強化という同じ問題意識をもった仲間との交歓の場を、皆さんは名残惜しそうに最後まで有効に活用していました。