「組織基盤強化ワークショップ 2017」イベントレポート
2017年4月27日に、ひと・まち交流館 京都にて、特定非営利活動法人 きょうとNPOセンター、認定特定非営利活動法人 日本NPOセンター、パナソニック共催のもと、「NPO/NGOの組織基盤強化のためのワークショップin京都」を開催しました。
2013年から始まったこの「組織基盤強化ワークショップ」は、今年は京都、熊本、高知、山形、横浜、長野の順に全国6カ所で開催。組織の基盤強化の実践に向けた第一歩として、NPO/NGOリーダーやスタッフが組織を見直すことができるよう、理論、事例報告、さらに実際に組織課題を深堀りしていくワークを組み込んだプログラムになっています。参加することで、組織基盤強化の重要性や新たな発見、気づきを持ち帰ってもらい、それぞれの組織のステップアップに役立てていただけたらと考えています。今回は、京都で開かれたワークショップの模様をレポートします。
組織を見直す機会にしていただき
今日得たことを次の一歩のきっかけに
パナソニックは、「A Better Life, A Better World(よりよい暮らし、よりよい世界)」のブランドスローガンのもと、事業活動と共に企業市民活動を通じて社会課題の解決、より良いくらしの創造、世界中の人々の幸せ、社会の発展に貢献していきたいと考えています。その際、NPO/NGOの皆様との協働が重要だと思っています。社会課題の解決に取り組まれる皆様が持続的に発展していくためには、「組織基盤の強化」が大切だと認識し、パナソニックでは、組織基盤強化の支援に特に力を入れています。
日ごろ、頭の片隅にありながらも、ゆっくりと考える時間のない組織基盤について、グループワークなどを通じて見つめ直す機会にしていただきたいと考えています。そして組織の方々にも共有いただき、次の一歩を踏み出すきっかけにしていただけたらと思います。
パナソニック CSR・社会文化部
東郷 琴子
“船”である組織基盤を強化することがプロジェクトを進める鍵
日本NPOセンター
代表理事 早瀬 昇さん
NPO/NGOの組織基盤が問われる理由には、組織基盤が強化されないまま、個々の事業ばかりに追われると結局は団体運営が不安定になるからです。組織基盤を船、事業を積荷に例えると、船がしっかりしていないと、いずれ船は積荷と共に沈んでしまう。そうならないために、船である組織基盤の強化が必須です。
組織基盤を進める際にまず確認しておかねばならないのは【自立】の捉え方です。自立とは他者に頼らないことと思われそうですが、NPOの自立とは「自分で決める」ことです。元来、NPOには2つの顧客がいます。第1の顧客は「対象・課題(サポートする相手)」。そして第2の顧客は「支援者」です。なぜ「支援者」も顧客と呼ぶのでしょうか。NPOは「支援者」に提供できるものがあるからです。それは「参加の機会」です。NPOは支援者に頼るのではなく、参加の機会を提供し協働することで、主体的に活動できる存在なのです。
そのために不可欠なのが、【目標設定】。
「ビジョン(実現したい目標)」、「ミッション(目標実現に向けた使命)」、「バリュー(大切にしたい価値)」の確立です。
現状とビジョンとのギャップを埋めて解決するのがNPOの役割ですが、ビジョンは人の価値観や社会観などで異なります。だからこそビジョンやミッション、バリューを明確に示し、協働する支援者の参加の輪を広げることが大切なのです。
続いては【人的基盤】。
人は財産です。事務局体制の整備や、スタッフが活動しやすい環境づくりは、組織基盤強化に欠かせません。職員とボランティアが協働できる場づくりも大切です。たとえば職員はもちろん、ボランティアも企画段階から参加できれば、内発的な意欲を高めることができます。また、職員には公正で好ましい条件での労働、そして賃金を保証することも必要です。
【財政基盤】も重要です。
「助成金・補助金」や「受託事業収入」は大口なので、ついこちらに走りがちですが、変動的で不安定。一方、「会費・寄付金」、「自主事業収入」は小口ではありますが、より安定的です。
また、「会費・寄付金」、「助成金・補助金」を提供者は、NPOと共にビジョンの実現に参加する創造者ともいえます。
なおボランティアや寄付をすることで、社会の課題が「自分ごと」になり、当事者意識が高まる点も重要です。
最後は【組織統治(ガバナンスの確立)】について。
リーダーシップとは、決定が迅速にできる専制型、衆知を集めて無難に運営できる民主型、自覚を促す放任型の3つがありますが、どれかが良いのではなく、場面によってどう使い分けるかが大切です。
最後に、2003年、NPO法施行5年を機に「信頼されるNPO」になるには何が必要かと話し合われ、翌2004年に「民間NPO支援センター 将来を展望する会」が、「信頼されるNPO」の条件7か条を作成しました。これらを大切にしながら、組織基盤を強化していけただけたらと思います。
●信頼されるNPO 7つの条件
- 明確なミッションを持って、継続的な事業展開をしていること
- 特定の経営資源のみに依存せず、財政面で自立していること
- 事業計画・予算の意思決定において自律性を堅持していること
- 事業報告、会計報告などの情報を積極的に公開していること
- 組織が市民に開かれており、その支持と参加を集めていること
- 最低限の事務局体制が整備されていること
- 新しい仕組みや社会的な価値を生み出すメッセージを発信していること
成果目標と達成に向けたさまざまな取り組みが
スパイラルのように作用しあい、実現していった
みやぎ発達障害サポートネットは、発達障害のある人たちとその家族が人格と尊厳を保ち、安心して暮らせる社会作りに貢献することをミッションに、自分を語れる当事者から、発達障害を理解した市民、アドボカシー(提言)できる職員、この3者がお互いに育ち、理解を深め、歩み寄ることを願い事業を通して活動しています。
2011年に東日本大震災があり、東北地方は大変な思いをしましたが、当法人も厳しい現実に直面し、怒涛のような2年間でした。早瀬さんのお話にもあったように、事業に追われる日々で職員も疲弊し、資金が厳しい状況でした。そこで、事業中心から法人組織を考えた視点を持てるようになりたいという願いから、NPOサポート ファンドの組織基盤強化に応募しました。
みやぎ発達障害サポートネット
代表理事 相馬 潤子さん
13名の職員のがんばりは、3年間の成果指標の達成につながっています。
まずは、中期計画、行動プランを作成し、行動プランの中に年度毎の成果目標を決めていきました。これが、見通しのある運営につながりました。私たちにとっての組織基盤の強化は、やはり中期計画と行動プランにあったのだと思います。行動プランに掲げた成果目標と達成に向けたさまざまな取り組みが、スパイラルのように作用しあって、実現していきました。
1年目は山積みの課題のなかで、糸口を探りたいという一心でNPOサポート ファンドの助成をいただき、NPO支援機関からの協力を得、組織診断を行い、浮き彫りになった課題の中から最優先課題である中期計画作成にとりかかりました。
2年目は、解決していない問題に新しい課題を加えました。2年目の成果の中でも、職員の高いモチベーション、療育という専門性を持った人材育成、力量アップが大きな成果といえます。
組織基盤強化の3年目の大きな成果は、活動拠点に向けた確実なステップを歩み始めたことです。今年の秋頃には、新しい活動拠点に移転する予定です。もうひとつは人材育成オリジナルプログラムを確立したこと。最後に人材育成の際に使用する療育課題の本を作り上げたことです。この本を使い、内部の職員だけでなく、外部の支援者を対象にした人材育成講座を開設し、5回にわたって実施する予定です。
3年間をふり返り、やはり大切なのは職員の存在。今回で、率直にモチベーションの高い職員ばかりだと自信が持てました。そして3年目を終え、確かな広がりを感じています。3年で得たものを軸に、発達障害のある方も安心して暮らせる社会を作るため、さらなる進化に向けてこれからも活動を進めたいと思います。
長期計画から今の活動を見直す
バックキャスティングを行い意識に変化
グローカルセンターは、2013年に設立された新しい法人です。グローバルな視点で物事を考える能力を備えつつ、地域経済・社会(ローカル)の持続的な発展に情熱を注ぐ「グローカル」な人材を育成していくという想いに共感する京都の大学・経済界・および行政機関などの協力の元、学生と企業人がフランクに普段の姿で出会える場を創出している団体です。
具体的には、これまで100以上の企業・学生連携プロジェクトを実施してきました。
組織基盤の、「組織」から考えてみましたが、組織は例えばルールや業務の分担、上下関係など、そうイメージする方が多いと思います。しかし私たちの組織は、強制的なルールがほとんどありません。それぞれ自立型で、自分たちの判断で動いています。大学と企業、大学と地域の垣根を越えるための組織なので、組織内の垣根もありません。上下関係もなく、フランクに本音が話せるような風土を作っています。
グローカル人材開発センター
専務理事付渉外 行元 沙弥さん
組織基盤で私たちが大切だと思ったのは、ご指摘をいただいたり、スタッフ間でコンフリクトが起きたり、理事の方から厳しい言葉をいただいたりと、うまくいっていない時のほうが真剣に考えるということ。うまくいかない時のほうがチャンスだと思っていて、いちばん大事なものを確認する作業は、時間がかかっても対話をしながら解決するのが大切だなと感じています。
我々は大学の文科省の事業に絡めて設立した組織ですので、最初から委託金をいただくことができました。しかしその委託金もこの3月で終了し、これからは自分たちでデザインし、アレンジしていくというフェーズに入りました。委託金だとやることが決まっていましたが、今は現場のスタッフたちが自分たちの力で前に進んで行こうとがんばっています。
今年、内閣府の「社会的インパクト評価実践研修」作成ロジックモデルを作り、事業目標を掲げ、改めてやりたいことと、やらなければならないことのバランスはとても難しいと感じました。また、10年後の長期成果から今の活動を見返す、バックキャスティングに初めて挑戦し、今、目の前の仕事に追われすぎていることに気づきました。社会の為に役に立つことをやっているつもりでも、自己満足になっていないだろうかと考えさせられ、問題意識も変わったように思います。そして大切なのは、それを担う人的基盤です。これまでは関係先企業等や学生が第一だと思っていましたが、一番大切なのは自分たちで自分たちが幸せに働いているということをきちんと見せていくこと。まずは、スタッフのやりたいことを組み込みながらこれからの事業を組んでいきたいなと思っています。
私たちが考える組織基盤は、やはり人です。リアルでしかできない、本音で話し合う「場づくり」が、安定的な組織基盤につながるのではないかなと思います。
第三者の目だからこそ見えてくる、組織基盤の課題を深掘りするワークショップ
事例発表のあと、8グループに分かれて組織基盤の課題を深堀りするワークショップが行われました。4〜5名の参加者に、1名のファシリテーター(進行係)がつき、それぞれの課題に向き合いました。
1.組織課題の抽出
それぞれが付箋に組織の具体的な課題を書き出し、3つに絞って発表しました。「情報発信の方法がない」、「事務スペースの確保」、「分析ができる人材の不足」など、それぞれが抱える課題が浮き彫りになりました。
2.課題についての他者からの質問
出された課題について、同じグループの他者が付箋に「なぜ必要なのか?」といった質問を書き込む作業を実施。例えば「どんな情報発信が望ましいと考えるのか」、「なぜ事務スペースが必要なのか」など、さまざまな質問が本人に投げかけられました。
3.課題と質問に対する発表・意見交換
課題と、質問の答えについて各人が発表。それぞれの団体の金銭事情や会員事情、これまでの実績などを赤裸々に語り合い、共に問題解決に向けてディスカッション。組織基盤強化への糸口を共に探しました。
さいごに
Panasonic NPOサポート ファンドのご紹介
「Panasonic NPOサポート ファンド」は、国内で先進的な取り組みを展開するNPOや、新興国・途上国で活動するNGOの組織基盤の強化を応援させていただく公募型の助成プログラムです。
現在は、「環境分野」、「子ども分野」、「アフリカ分野」の3つを応援させていただいています。今回、組織基盤を船に例える話がありましたが、積荷、いわば事業だけに力を注いでいても、組織基盤(船)と事業(積荷)とのバランスが悪ければ船は目的に辿り着くことなく沈んでしまいます。組織基盤がしっかりしてこそ事業も発展していくことをいつも船の絵でご紹介しています。
「環境分野」「子ども分野」では、第三者の多様で客観的な視点を取り入れながら組織の優先課題を抽出し解決の方向性を見出す「組織診断」や、組織運営上の課題を解決する「組織基盤強化」の取り組みを助成し、「アフリカ分野」ではアフリカ諸国の課題解決に向けた「広報基盤の強化」に助成します。
ぜひ「Panasonic NPOサポート ファンド」を皆様の組織の次のフェーズに向けたステップアップとしてご活用ください。皆様からの応募をお待ちしています。
【2017年募集 応募受付期間】2017年7月14日(金)〜7月31日(月)必着