2018年 Panasonic NPOサポート ファンド事業評価レポート

組織基盤強化の取り組みにより、
組織基盤がどのように強化され
事業のアウトカムがどのように拡大したか

評価結果サマリー

  • 2016年に助成期間を終了した11団体のうち9団体(81.8%)が、組織基盤強化事業の取り組みにより、助成前に抱えていた課題が解決した
  • 組織運営力は、11団体の平均で助成前の54.7ポイントから69.6ポイントに、約1.3倍上昇した
  • 11団体すべてで、主要事業のアウトカムが増大した

上記の結果より、Panasonic NPOサポート ファンド事業の有効性が確認できた。

公益財団法人 パブリックリソース財団
事務局長 田口 由紀絵

本評価の目的と概要

Panasonic NPOサポート ファンドでは、2011年より毎年、助成事業の成果を検証することを目的に、助成終了後1年以上が経過した団体を対象にフォローアップ調査を実施している。
組織基盤強化助成の成果は、どれだけ助成団体の組織基盤が強化されたかという視点に加えて、事業の成果がどれだけ高まったかという視点で確認する必要がある。

今回は2016年に助成期間を終了した11団体を対象にアンケート調査を行い、本事業による資金提供及び非資金的取り組みが、助成対象団体の組織基盤の強化や、活動の充実による社会課題の解決の促進に与えた影響について調査し評価を行った。

評価方法

2016年に助成期間を終了した11団体(図表1)を対象に以下の調査を行い、評価を行った。

  • ① 応募用紙、完了報告書、組織診断報告書の分析
  • ② アンケート調査
  • ③ 診断シートを指標群として活用した、助成の前と後の組織運営力の比較

団体名

分野

助成期間

認定特定非営利活動法人 びわこ豊穣の郷

環境

2016年1月~2016年12月

特定非営利活動法人 芦生自然学校

環境

2016年1月~2016年12月

一般社団法人 水辺のユニオン

環境

2016年1月~2016年12月

特定非営利活動法人 しずおか環境教育研究会

環境

2015年1月~2016年12月

認定特定非営利活動法人 自然再生センター

環境

2015年1月~2016年12月

認定特定非営利活動法人 環境市民

環境

2014年1月~2016年12月

特定非営利活動法人 MerryTime

子ども

2016年1月~2016年12月

特定非営利活動法人 ふぉーらいふ

子ども

2016年1月~2016年12月

特定非営利活動法人 キッズドア

子ども

2014年1月~2014年12月
2016年1月~2016年12月

認定特定非営利活動法人 長野サマライズ・センター

子ども

2015年1月~2016年12月

認定特定非営利活動法人 みやぎ発達障害サポートネット

子ども

2014年1月~2016年12月

〈図表1〉

11団体は、助成期間と内容によって(図表2)のように3つに区分される。

区分

団体数

今回調査対象とした助成期間

Ⅰ:組織診断と2年間の組織基盤強化

2団体

2014年~2016年

Ⅱ:組織診断と1年間の組織基盤強化

5団体

2015年~2016年

Ⅲ:組織診断と組織基盤強化(合計で1年間)

4団体

2016年

〈図表2〉

評価の視点

  • 1)団体の規模や人員、組織課題の解決の度合いなどの定量的評価
    収入額の変化、財源の多様化、自主財源比率の変化、会員数、スタッフ数、助成申請の際に抱えていた組織運営上の課題がどのくらい解決されたか、組織診断の効果等
  • 2)助成先団体の組織能力の定量的評価(事前・事後の比較)
  • 3)助成先団体における事業アウトカムの検証

評価結果

アンケートおよび診断シートに回答があった11団体を対象に、「評価の視点」に沿って評価を行った。

1)団体の規模や人員、組織課題の解決の度合いなどの定量的評価

助成団体の組織基盤がどのくらい強化されたかを測るために、団体の規模や人員、組織課題の解決の度合いなどの定量的評価を行った。アンケートの回答によれば、2016年に助成期間を終えた11団体のうち9団体(81.8%)で組織運営上の課題が解決した。

【8割の団体が、助成前に抱えていた課題が解決した】
組織運営上の課題の解決の度合いを自己評価で聞いたところ11団体中4団体で「目標を上回って(目標の120%)」あるいは「目標どおり(目標の100%)」、5団体で「ほぼ解決された(目標の80%)」。全体で81.8 %の団体が、組織運営上の課題の解決がはかられたとしている。

「目標を上回って解決された(目標の120%)」と回答した2団体は、いずれも子ども分野の団体である。そのうちの1団体は、年間総収入額が助成前の4.6倍に増加し、特に事業収入(委託費)の伸びが6.97倍と顕著であった。また、事業アウトカムについては、年間450名だった利用者(経済的に困難な家庭の子どもの学習支援プログラムの利用)が、現在では年間2,064名と約4.6倍に増加するなど、受益対象者が大幅に拡大している。
もう一方の団体は、年間総収入額が助成前の1.6倍に増加し、特に助成金が7.6倍、事業収入(自主事業)が約2倍に拡大した。また、組織運営力が、助成前の55.8ポイントから78.5ポイントと、22.7ポイント上昇している。事業アウトカムについては、年間110名だった利用者(自閉症・発達障害のある子どもたちの支援プログラムの利用)が147名に増加するなど、受益対象者が拡大している。

一方で、「あまり解決されなかった(目標の60%)」と回答した団体は2団体だった。2団体に共通しているのは、年間総収入額が減少していること、組織運営力が上昇しているもののそれぞれ3.4ポイントと5ポイントと低い値にとどまっていること、事業アウトカムについては拡大していることなどである。
組織運営上の課題が、なぜ目標を上回って解決したのか、あるいはあまり解決されなかったのか、その要因を明らかにするためには、さらに個別にヒアリングを行うなどなどの調査を行った上で分析する必要があるだろう。

【総収入額の増加はわずかだが、自主事業が増加した】
助成実施前の総収入に対する助成最終年及び最新の決算での各団体の総収入の増加率の平均は、助成最終年は2.1%、現在は-8.1%であった。財源別では「自主事業」で助成最終年に15.2%、現在22.2%の増加率を示した。また、11団体中8団体(72.7%)の団体が「大いに安定した」「ある程度安定した」と回答した。

助成実施前に比べ現在の総収入が減少している団体は8団体であったが、そのうち6団体は、財源が「大いに多様化した」「ある程度多様化した」と答え、5団体が「大いに安定した」「ある程度安定した」と回答した。総収入は減少しているが、財源の多様化・安定化は図れており、行政依存からの脱却や、業務や事業のスリム化、外部環境の変化に応じた方向転換などの組織変革・事業変革に取り組むことで、組織の体質改善が図られている様子がうかがえる。

助成最終年

現在

増加率

n

増加率

n

総収入額

2.1%

11

-8.1%

11

内訳

会費

-14.1%

10

-37.2%

11

寄付

18.4%

10

-18.1%

10

助成金・補助金等

-7.8%

11

-22.1%

11

事業収入(委託費)

-6.7%

9

-10.3%

9

事業収入(自主事業)

15.2%

10

22.2%

10

総支出額

8.1%

11

-10.9%

11

〈図表3〉

【スタッフ数が拡大した】
実施前に対する現在の各団体の有給、無給を合わせたスタッフ数の増加率の平均は30.4%であった。有給スタッフについては、常勤38.9%、非常勤93.2%であった。

増加率

n

有給・常勤スタッフ

38.9%

9

有給・非常勤スタッフ(パートタイマーなど)

93.2%

9

有給計

35.2%

10

無給・常勤スタッフ

26.0%

3

無給・非常勤スタッフ

29.1%

2

無給計

7.7%

3

スタッフ計

30.4%

11

上記以外のボランティア

-13.8%

5

〈図表4〉

【組織診断の効果】
アンケート調査に回答した11団体のうち6団体(54.5%)が、組織診断を行う前に想定していた「優先して解決すべき組織の課題」や「組織基盤強化で取り組む内容」が、「かなり変わった」、5団体(45.5%)が「一部変わった」と回答した。完了報告書からは、第三者が入った組織診断を行うことで、客観的な課題の把握や、組織内での共有が進んだことがうかがえる。

非常に役立った

多少は役立った

特に影響はなかった

全体

6

54.5%

5

45.5%

0

0.0%

環境分野

4

66.7%

2

33.3%

0

0.0%

子ども分野

2

40.0%

3

60.0%

0

0.0%

〈図表5〉

2)助成先団体の組織能力の定量的評価(事前・事後の比較)

助成団体の組織運営力がどのように強化されたかを把握するために、診断シートを用いて、助成の前と後(現在)との、組織運営力を定量的に比較した。回答のあった7団体の組織運営力は、平均して54.7点から69.6点へと、約1.3倍に上昇した。

定量的評価(事前・事後の比較):①EI 助成前/60.0点、現在/64.0点 ②EIV 助成前/64.0点、現在/61.0点 ③ EIV 助成前/62.0点、現在/70.0点 ④EV 助成前/70.0点、現在/57.0点 ⑤CⅢ 助成前/57.0点、現在/79.5点 ⑥CIV 助成前/79.5点、現在/72.0点 ⑦CV 助成前/72.0点、現在/72.5点 平均 助成前/58.0点、現在/69.0点

〈図表6〉

変化が最も顕著だった団体(⑤cⅢ)は、助成前が22.2点であったのに対し、現在は51点と、約2.3倍となった。
同団体では、外部の支援者とともに定期的に「組織基盤強化会議」を重ねることで、「職員、ボランティア、理事が横断的に話し合い、PDCAサイクルを繰り返しながら全体で課題を共有する流れができた」という。特に、全体での会議の前に支援者と事前の打合せを丁寧に行ったことが、課題を絞り込んだ議論を可能にした。それにより、例えば以前は十分に浸透していなかった理念を明確化・共有化できたこと、業務の削減・効率化が図れたこと、地域社会へのソーシャルインパクトを念頭に置いた事業展開にシフトしていったこと、事務所(拠点)を移転して延べ床面積を2倍にできたこと、移転費用のファンドレイジングに成功したこと、といった成果につながっている。

なお、診断シートの組織能力の分類と主な指標は、(図表7)にあるとおりである。

組織能力の分類

主な指標

1

マネジメント

ミッション、社会的ニーズ把握、意思決定、リーダーシップ、ガバナンス、説明責任、リスクマネジメント

2

人材

スタッフの能力、スタッフマネジメント、リクルーティング、人材育成、ボランティア参加、福利厚生

3

財務

財務管理、資金調達、資金繰り、安定性、収益性

4

プログラム

事業の強みと弱みの理解、事業の効果、事業計画

5

事業開発・マーケティング

事業の目標設定、社会的背景調査の実施、コンピタンス分析、ターゲット受益者の設定、サービス・商品設計、採算性分析

〈図表7〉

3)助成団体におけるアウトカム・インパクトがどのように拡大したか

組織基盤の強化に取り組んだ結果、主要事業のアウトカムがどれくらい増大したかについて、 (ア)受益者の拡大、(イ)社会的課題の解決への影響、(ウ)社会の意識の変化に与えた影響、(エ)政策への影響、(オ)他団体や企業への影響、の5つの指標を用いて確認した。すべての団体が少なくとも1つ以上の項目について改善・向上がはかられたと回答した。以下に、主なポイントを挙げる。

【受益対象者が拡大した】
11団体中10団体で助成後に受益対象が拡大し、受対象者数の助成前比の平均は1.7倍である。キッズドアでは、経済的弱者の家庭の子ども(小学生~高校生、高校中退者)の数が4.6倍となっている。

【社会の意識、他団体や企業に影響を与えた】
びわこ豊穣の郷や水辺のユニオンなど環境分野の団体では、地域コミュニティとの関係が深まり、団体が取り組む環境課題や活動の必要性に対する理解が進んだとしている。しずおか環境教育研究会は、企業に事業ノウハウを伝えることで従来の活動地域に留まらず受益対象者を増やすことができていると回答した。キッズドアは「全国子どもの貧困・教育支援団体協議会」を発足させることにより、全国的な支援の充実を担うことができるようになったと述べている。

【政策に影響を与えた】
ふぉーらいふやキッズドアは法制定や国の制度の拡充に影響を及ぼしたと回答している。また環境市民や長野サマライズ・センター、みやぎ発達障害サポートネットなどは政策評価や提言などを通じて自治体の施策に影響を与えたとしている。

第三者による支援の効果について

組織基盤強化を効果的に行うためには、取り組むべき課題が正確に把握されている必要があるが、団体自らがそれを行うのは難しい。今回の調査でも、申請時に団体が想定していた組織の課題が、第三者による組織診断を実施することで多かれ少なかれ変化していた。また、アンケートの回答によれば、第三者が団体の組織基盤強化を支援することの効果について次に代表されるコメントが多くを占めている。

  • 「第三者の支援が入ることで、関係者だけでは気づかなかった課題や、強み弱みを把握することができた」
  • 「自分達では見ないふりをしてきた組織の課題を自覚し、整理して共有できた」
  • 「ブランディングについて知り、学ぶことができた」
  • 「展開のアイデアをいただくことができた」
  • 「話し合いを円滑に進め、脱線しがちな状況を常に回避でき、まとめに至ることができた」

支援者が持つ客観性、課題の整理能力、知識や専門性、ファシリテーション機能などが、各団体の組織基盤強化を効果的なものにしたと考えられる。一方で、支援者が十分にその役割を果たせなかったケースもあり、その要因を探って今後に活かすことが課題である。

まとめと今後の課題

本助成事業への取り組みにより組織課題が解決したとする団体が8割を超え、組織運営能力が助成前と比べて1.3倍に増大した。また、すべての団体で主要事業のアウトカムが増大するなど、本助成事業の組織基盤強化への有効性が明らかになった。

本調査は、助成期間終了後1年~2年未満が経過した団を対象としており、中・長期的に起こるであろう組織の変化や社会的インパクトへの影響は把握できていない。組織基盤強化の取組みによる、組織や社会に対しての長期的な影響を把握することが今後の課題である。

これから取り組む団体へのメッセージ

本助成事業の有効性を示すコメントとして、これから助成事業に取り組む団体へのメッセージの一部を紹介する。

  • 「持続可能な運営を目指す団体には、とても重要な事業です。短期ではなかなか結果は出ませんが、組織の「体質改善」ができ、何年か後には必ず良い結果に結びつくと思います。」
  • 「助成終了後もまだ向きあっている課題が多く、成果も充分出せていませんが、組織を継続させ、社会へインパクトを出し続けるためには、避けて通れない根本課題だと思います。」
  • 「活動そのものではなく、活動を支える組織の課題を考える時間はとりにくいものです。しかし、それに取り組むことは将来的に大きな成果を活動にももたらすと思います。」
  • 「組織基盤強化に取り組む際、内部関係者で折り合いがつかないことや、改善が思うようにすすまない困難な場面に直面することがあると思いますが、助成事業の事務局の方や、コンサルタントの方がしっかり伴走してくれます。」
  • 「基盤強化事業に取り組むことは、かなりの背伸びだったかもしれないが、外からの支援、普段お目にかかれない他の組織の様子を知る機会もいただけて、法人崩壊の危機を乗り切ることができた。内部の意識改革という想定していなかった成果も生み出せて、一歩踏み出してよかったと心から思っています。」