多様な視点で組織の課題を深掘りする
「組織基盤強化」のエッセンスを体感

NPO/NGOの組織基盤強化のためのワークショップ2019 in 東京

2019年5月23日、東京・渋谷で「NPO/NGOの組織基盤強化のためのワークショップ」を開催しました。今回の場所はパナソニック創業100年を機に、「次の100年を構想する実験区」として2017年に渋谷に誕生したスペース「100BANCH」。2008年から始まったこのワークショップでは、助成対象となる組織基盤強化について講演や事例発表も交えて学び、体験をしていただいています。今年は福島、東京、横浜、名古屋、京都、熊本の全国6ヵ所で開催しました。

基調講演 組織基盤強化を成功させるポイントとは?

組織基盤強化をたとえると、荷物を積み、目的地に向かう船の状態を確認し、強化する取り組みといえます。積み荷(個々のプロジェクト)を港(ビジョンが達成された状態)まで運ぶにはしっかりした船(組織基盤)、そして海図(中期計画)と現在地がわかる羅針盤を読める船長(リーダー)、それを支える乗組員(スタッフ)が必要です。
NPOは個人の気づきから始まることが多く、制度から漏れた困り事に対応する時にNPOらしさが発揮されます。そのためには多様な気づきや意見を採り入れることも重要です。NPOらしい組織基盤を考えるときに、この視点は大切にしたいところです。

組織基盤強化を考える4つのポイントは「人」、「お金」、「ガバナンス」、「ビジョン・ミッション」です。意思決定のあり方やリーダーシップの取り方は、それぞれの組織の規模や目指す方向によって変わります。メンバーとよく話し合い、ボランティア、寄付者、仲間を増やす努力を絶えずしていきましょう。そして、やりたい事業と財源の整合性が取れているかを定期的にチェックしていくことも重要です。

日本NPOセンター
事務局長 吉田 建治さん

組織基盤強化で大事なのはビジョン(目指すべき方向性/将来あるべき姿)、ミッション(組織の使命/存在意義)、バリュー(組織の価値観)です。バリューとは「団体らしさ」や「団体のこだわり」のことです。これを明文化しておくと、あとから入ってきたスタッフもミッションやビジョンに照らし合わせて議論の中で発言することができますし、組織が大きくなり「ガバナンス」や「お金」について考えるときの指針となります。
詳しくは、日本NPOセンターで発行している「NPOリーダーのための15の力」にもまとめています。ワークブックもありますので見てみてください。

写真:基調講演の様子

事例報告 理事や職員がエンパワメントされ、持続可能な組織に成長

私たちは、フィリピンの貧困地域で子どもの教育支援、女性の収入向上、啓発活動を行っている団体です。2015年、16年、18年の3年間、NPOサポートファンドの助成で組織基盤強化に取り組みました。

財源が足りず、初めはファンドレイジングこそが組織基盤強化につながるのだと思っていました。まずは組織診断を受け、理事と職員に対するヒアリング、業務の棚卸し、ステークホルダーへのヒアリングを行いました。その結果、中期計画の不在、業務種・業務量の過多、情報と決定権の偏りという優先すべき課題が見えてきました。

ソルト・パヤタス
事務局長 井上 広之さん

そこで合宿を開き、2日間かけて初めての中期計画をつくりました。年5回だった理事会も月1回以上に増やして活性化。さらに業務量を分析し、事業に優先順位をつけて、つくった時間で2年目からファンドレイジングに取り組みました。3年目は新しい職員を雇うために、引き継ぎのツールや研修を整備しました。年に1度の合宿や中期計画の見直し、ファンドレイジングも継続的に実施しています。

助成前は、創業メンバーのベテラン勢をサポートすればいいという意識だった理事や職員が、中期計画を一緒につくったことで、自分もフィリピンの未来をつくる一員になれるんだとエンパワメントされました。団体の世代交代も進み、事務局長と理事長が若手に交代。みんなで決めたことをみんなで実施する組織に生まれ変わりました。厳しい決断や選択もありましたが、持続可能な団体に成長できたと思います。

写真:事例報告の様子

グループワーク 組織課題を洗い出し、根っこを深掘りするワークショップ

写真:ワークショップの様子1
写真:ワークショップの様子2
写真:ワークショップの様子3

後半は、参加者が8つのグループに分かれて「組織課題を切り分けより根本を探すこと」を体験するグループワークを実施しました。

まずは「NPOの組織課題のケーススタディ」を読み、個人で、その団体にどんな問題があるのかを洗い出します。これをグループ内で共有し、さらに挙げられた課題に対して、その原因を深掘りして本質的な問題点は何かを探っていきました。

あるグループでは、「職員が先行きに不安を抱えるのは中期計画やビジョンが見えないから」「お金がないことも問題で、継続的に自活できる事業が必要ではないか」といったことが議論され、別のグループでは、「スタッフが育たないのは、代表がすべての情報を握って物事を決めているから」「役割分担が明確でない」「求める人材像がはっきりしていない」「コミュニケーションの機会が少ない」などと言った課題の深掘りのやり取りが見られました。
最後は、自分が所属する組織の課題を洗い出し、その課題の中からさらに一つを選んで深掘りする個人ワークを行いました。それまでのなごやかな雰囲気とは打って変わって、参加者の皆さんは真剣なまなざしで黙々と自分たちの組織課題について思いを巡らせていました。この内容をグループ内で発表し合い、違う立場の視点を交えて共有しました。

Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGsのご紹介
SDGsの重要な目標である「貧困の解消」に向け、プログラムを改定

Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGsは「貧困の解消」に向けて取り組むNPO/NGOが持続発展的に社会変革に取り組めるよう、組織基盤の強化を応援する公募型の助成プログラムで、「海外助成」と「国内助成」の2つのプログラムがあります。
「貧困の解消」はグローバルでの社会課題として捉えられているSDGs(Sustainable Development Goals)に掲げられた17のゴールのうち、1つ目の目標でもあります。また、パナソニックの松下幸之助創業者は企業の社会的使命として「生産者の使命は、この社会から『貧困』をなくしていくこと」と語っており、パナソニックの企業市民活動の重点テーマを「共生社会の実現に向けた『貧困』の解消」としています。

パナソニック CSR・社会文化部
主幹 東郷 琴子

本プログラムの前身となる「Panasonic NPOサポートファンド」は2001年に創設しており、日本では珍しい活動への助成ではなく、組織基盤強化に助成をしています。
創業100周年を迎えた2018年4月にプログラム名を新たに、貧困の解消に取り組むNPO/NGOの組織基盤強化を応援するプログラムに改定しています。

組織基盤強化助成とは、人材育成や財政基盤の強化、組織マネジメント力の強化といった団体の根っこの部分に栄養を注ぐことで、根が深く張って、木そのものが大きく成長するよう支援するものです。8ヵ月の組織診断後に最長2年の組織基盤強化に取り組むコースと、具体的な組織基盤強化の取り組みから始めるコースがあります。

写真:組織基盤強化について説明する東郷 琴子

外部の伴走者を入れ、多様で客観的な視点を交えながら組織診断を行う仕組みを採り入れたのは2011年からです。これまでに助成した団体からは「視野やアイデアが広がった」「第三者を巻き込むことで組織の可能性を引き出してもらえた」「組織全体を発展させる視野に立てた」「熱い思いを再確認する場になった」といった声をいただいています。
ぜひ、皆さんの取り組まれている社会課題の解決促進に向けて、本ファンドをご活用ください。

「Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGs」
応募受付期間:2019年7月16日(火)~7月31日(水)必着

パナソニックは、本ファンドでの組織基盤強化の取り組みを通じて、市民活動の持続発展、社会課題の解決促進、社会変革に貢献し、誰もが歓びを分かち合い、活き活きとくらす共生社会を目指してまいります。
組織の自立的な成長と自己変革に挑戦するNPO/NGOの皆様からの応募をお待ちしています。