2019年 Panasonic NPOサポート ファンド事業評価レポート

組織運営力が助成前より約1.2倍に向上し、
主要事業のアウトカムが増大

評価結果サマリー

  • 2017年に助成期間を終了した8団体のすべてで助成前に比べて総収入が増加し、その増加率の平均は29.2%であった。また、8割にあたる7団体の財源が多様化した。
  • 組織基盤強化事業の取り組みにより、助成前に抱えていた課題が解決したのは8団体のうち5団体(62.5%)に留まった
  • 8団体の組織運営力は助成前より約1.2倍向上した
  • 8団体すべてで、主要事業のアウトカムが増大した
公益財団法人 パブリックリソース財団
事務局長 田口由紀絵

本評価の目的と概要

Panasonic NPOサポート ファンドでは、2011年より毎年、助成事業の成果を検証することを目的に、助成終了後1年半が経過した団体に対してフォローアップ調査を実施している。
今回は2017年に助成期間を終了した8団体を対象にアンケート調査を行い、本事業による資金提供及び非資金的取り組みが、助成対象団体の組織基盤の強化や、活動の充実による社会課題の解決の促進に与えた影響について調査し評価を行った。

評価方法

2017年に助成期間を終了した8団体(図表1)を対象に以下の調査を行い、評価を行った。回収率は100%であった。

  1. 応募用紙、完了報告書の分析
  2. アンケート調査
  3. NPOマネジメント診断シート(診断シート)を指標群として活用した、助成の前と後の組織運営力の比較

団体名

分野

助成期間

特定非営利活動法人 循環生活研究所

環境

2017年1月~2017年12月

公益社団法人 日本環境教育フォーラム

環境

2016年1月~2017年12月

特定非営利活動法人 アジア太平洋資料センター(PARC)

環境

2016年1月~2017年12月

認定特定非営利活動法人 大阪自然史センター

環境

2015年1月~2015年12月
2017年1月~2017年12月

特定非営利活動法人 アスイク

子ども

2017年1月~2017年12月

特定非営利活動法人 もあなキッズ自然楽校

子ども

2017年1月~2017年12月

特定非営利活動法人 はちのへ未来ネット

子ども

2014年1月~2015年12月
2017年1月~2017年12月

特定非営利活動法人 フリースクールみなも

子ども

2015年1月~2017年12月

〈図表1〉

評価の視点

  1. 団体の規模や人員、組織課題の解決の度合いなどの定量的評価
    収入額の変化、財源の多様化、自主財源比率の変化、会員数、スタッフ数、助成申請の際に抱えていた組織運営上の課題がどのくらい解決されたか、等
  2. 助成先団体の組織能力の定量的評価(事前・事後の比較)
  3. 助成先団体における事業アウトカムの検証

評価結果

1)団体の規模や人員、組織課題の解決の度合いと分析

助成団体の組織基盤がどのくらい強化されたかを測るために、団体の規模や人員、組織課題の解決の度合いなどの定量的評価を行った。

【8割の団体で財源が多様化し、総収入が29.2%増加した】
助成事業の実施前と比べて、実施後に財源は多様化したと思うかという問いに対して、8団体中無回答を除く7団体が、「ある程度多様化した」と回答した。助成期間による回答の違いは見られなかった。
助成事業実施後に財政は安定性を増したと思うかという問いに対して、8団体中7団体、87.5%の団体が「大いに安定した」「ある程度安定した」と回答した。

また、助成実施前の総収入に対する助成最終年及び最新の決算での各団体の総収入の増加率の平均は、助成最終年は15.8%、現在は29.2%であった。財源別に見ると、「助成金・補助金」が現在82.7%の増加率を示した。「事業収入」も委託10.3%、自主事業12.1%と、ともにプラスの増加率であった。

助成最終年

現在

増加率

n

増加率

n

総収入額

15.8%

8

29.2%

8

内訳

会費

-0.1%

7

-0.1%

7

寄付

-16.5%

6

-46.1%

6

助成金・補助金等

7.5%

7

82.7%

7

事業収入(委託費)

9.6%

5

10.3%

5

事業収入(自主事業)

3.7%

7

12.1%

7

総支出額

14.0%

8

24.8%

8

〈図表2〉

【有給スタッフ数の増加率の平均は26.4%】
助成事業の「実施前」と「現在」で、団体職員数の変化を訊ねたところ、実施前に対する現在の各団体の有給スタッフ数の増加率の平均は26.4%であった。このうち常勤は24.9%、非常勤は40.6%であった。
対象となる団体数および職員の実数が少ないため定量的な評価は難しいが、助成団体が成長を続けていることがうかがえる。

増加率

n

有給・常勤スタッフ

24.9%

8

有給・非常勤スタッフ(パートタイマーなど)

40.6%

8

有給計

26.4%

8

無給・常勤スタッフ

-

0

無給・非常勤スタッフ

-

0

無給計

-

0

スタッフ計

26.4%

8

上記以外のボランティア

17.8%

6

〈図表3〉

課題がほぼ解決された5団体を見ると、組織診断によって課題がかなり変わった3団体、組織診断によって課題が一部変わった2団体、組織診断によって課題が特に変わらなかった0団体に分かれる

団体数

〈図表4〉

課題があまり解決されなかった3団体を見ると、組織診断によって課題がかなり変わった0団体、組織診断によって課題が一部変わった1団体、組織診断によって課題が特に変わらなかった2団体に分かれる

団体数

〈図表5〉

組織診断を行うことによって組織の課題が変わったということは、課題の原因を根本から見直し、課題を再定義できたことを表しており、組織診断が有効にはたらいたことの目安となる。
サンプル数が少ないので、組織診断が有効にはたらくことが組織の課題の解決につながるとは言い切れないが、課題解決のための条件のひとつであったと考えられる。

助成期間が複数年である

組織の課題が「ほぼ解決された」と回答した5団体のうち4団体は、助成期間が2年、あるいは3年間であった。一方で、「あまり解決されなかった」と回答した3団体のうち2団体は、助成期間が1年間であった。

課題がほぼ解決された5団体の助成期間は、3年間 2団体、2年間 2団体、1年間 1団体

団体数

〈図表6〉

ただし、「ほぼ解決された」と答えた団体で助成期間が1年間であった団体は、助成期間中には課題の解決には至らず、助成期間終了後に独自で行った取り組みが効果を上げたために「ほぼ解決された」としている。

課題があまり解決されなかった3団体の助成期間は、3年間 0団体、2年間 1団体、1年間 2団体

団体数

〈図表7〉

また、「あまり解決されなかった」と答えた団体で助成期間が2年間であった団体は、助成期間中の取り組みには手ごたえを感じたものの、成果を生むまでには時間が足りなかったと回答している。
今回の対象団体では、助成期間が1年間であった団体で課題があまり解決されなかったという結果であったが、課題解決のためには複数年の助成が必須であるかどうかは、今後のさらなる検証が必要である。

外部協力者を効果的に活用できた

組織の課題が「ほぼ解決された」と回答した5団体のうち4団体は、外部協力者(コンサルタント)の効果を肯定的にとらえていた。具体的には、第三者に入ってもらうことで「組織を客観的に見ることができた」「決められた期限内に、決められた取り組みを行うことができ、成果物ができた」「場の中立性が保たれ、話しにくいことでも議論ができ、会議の質が向上した」「新しい視点でものごとを考えたり、行き詰ったときに的確なアドバイスをもらえたりした」「課題の整理や研修がスムーズに進んだ」といった記述があった。
一方で、「あまり解決されなかった」と回答した3団体は、外部協力者の効果は認めるものの限定的にとらえる傾向があった。

2)助成先団体の組織能力の定量的評価(事前・事後の比較)

助成団体の組織運営力がどのように強化されたかを把握するために、診断シートを用いて、助成の前と後(現在)との組織運営力を定量的に比較した。8団体の組織運営力は、平均して56.7点から67.7点に、約1.2倍に上昇した。

定量的評価(事前・事後の比較):1.EI 助成前/70.0点、現在/72.0点 2.EⅡ助成前/56.0点、現在/68.0点 3.EⅡ 助成前/79.0点、現在/81.0点 4.EⅢ 助成前/40.0点、現在/58.0点 5.CⅠ 助成前/59.0点、現在/58.0点 6.CⅠ 助成前/40.0点、現在/62.0点 7.CⅣ 助成前/61.0点、現在/81.0点 8.CⅣ 助成前/50.0点、現在/59.0点 平均 助成前/58.0点、現在/68.0点

〈図表8〉

変化が最も顕著だった団体(⑦CⅣ)は、助成前が40.6点であったのに対し、現在は65.2点と、約1.61倍となった。
なお、診断シートの組織能力の分類と主な指標は、下記の図表にあるとおりである。

組織能力の分類

主な指標

1

マネジメント

ミッション、社会的ニーズ把握、意思決定、リーダーシップ、ガバナンス、説明責任、リスクマネジメント

2

人材

スタッフの能力、スタッフマネジメント、リクルーティング、人材育成、ボランティア参加、福利厚生

3

財務

財務管理、資金調達、資金繰り、安定性、収益性

4

プログラム

事業の強みと弱みの理解、事業の効果、事業計画

5

事業開発・マーケティング

事業の目標設定、社会的背景調査の実施、コンピタンス分析、ターゲット受益者の設定、サービス・商品設計、採算性分析

〈図表9〉

3)助成団体におけるアウトカム・インパクトがどのように拡大したか

組織基盤の強化に取り組んだ結果、主要事業のアウトカムがどれくらい増大したかについて、(ア)受益者の拡大、(イ)社会的課題の解決への影響、(ウ)社会の意識の変化に与えた影響、(エ)政策への影響、(オ)他団体や企業への影響、の5つの指標を用いて確認した。すべての団体が少なくとも1つ以上の項目について改善・向上がはかられたと回答した。以下に、主なポイントを挙げる。

【受益対象者が拡大した】
8団体すべてが助成後に受益対象が拡大し、対象者数の助成前比の平均は2.4倍である。日本環境教育フォーラムでは、ESDを学校において推進する教員の数が6倍となっている。

【社会の意識、他団体や企業に影響を与えた】
循環生活研究所は「市民の意識が向上し、ゴミの削減につながった」、「自分たちで地域内循環に取り組みたいと思うようになった」と述べている。はちのへ未来ネットは、市民に子育て支援の重要性を知ってもらったことや他団体への影響を通して、地域のサロンや広場など既存の居場所事業が活性化されたとした。

【政策に影響を与えた】
循環生活研究所は、住民による生ごみの資源化について市がモデル地区を設けたと述べている。アスイクは自治体で子ども貧困対策の予算化が行われた、はちのへ未来ネットは、福祉部門にとどまらない教育、環境、産業等の各課の事業と連携した子育て支援につながったと回答している。

まとめと今後の課題

2017年に本助成事業により組織基盤強化に取り組んだ8団体は、いずれも財政規模が拡大し、財源が多様化し、有給スタッフの規模も拡大するなど、組織が成長していることがわかった。組織運営力も、助成前の1.2倍に拡大している。また、それに伴い8団体すべてが助成後に受益対象が拡大し、対象者数の助成前比の平均は2.4倍になるなど、社会的な成果(アウトカム)も増大している。本助成を受けた団体が社会的インパクトを生む団体となっていることが今回のフォローアップ調査で明らかになったといえる。

ただし、それがすべて本助成による効果であったかというと、そうとも言い切れない。8団体中3団体が「課題はあまり解決されなかった」と答えており、本助成事業が十分にフィットせずに1年間で助成期間が終了していたことがうかがえた。本調査ではそれらの団体の特徴について分析を試みたが、原因を特定するには至っていない。組織診断の有効性や外部の協力者(コンサルタント)との相性、あるいは組織の成長段階や規模、組織課題の深さなど、いくつかの要素があると考えられるが、ヒアリング等のさらなる情報収集を行ったうえで検証し、今後に活かすことが期待される。

これから取り組む団体へのメッセージ

本助成事業の有効性を示すコメントとして、2017年に助成期間が終了した団体から、これから助成事業に取り組む団体へのメッセージの一部を紹介する。

  • NPOは規模も小さく、常に「人・物・金」などの経営資源が十分でない組織だと思います。したがって、たくさんの課題があっても、なかなか手が付けられないのが実情です。NPOサポートファンドのご支援により、課題解決にチャレンジできるチャンスを十分に活かして、よりよい組織を作るとともに、事業もまたその組織の中で働く人も成長されることを期待しています。
  • 組織の問題を解決するのに有益なコンサルティングを受けるためには、コンサルタントとの相性も非常に重要と思われる。相互に信頼を置き、本音での話し合いを早期に進めることができるように、コンサルタント選びの際は事前の面談を数度重ねるなど、求めることと提供してもらえることのバランスが適切かなどを確認し合うことが大切だと感じた。ネームバリューも大切だが、組織と相性の良い第三者との出会いを果たし、成果の出る助成事業に取り組んで欲しい。
  • 「団体の運営に関して、助成いただくということは、本当にありがたいことだった。日々の業務の中で、基本に立ち返り、さらに学びを持って、自分達の活動を見なおし考える事は、とても難しく、そこに助成をいただけることは、結果、NPOの活動を長く継続し、その力が地域活性化や国づくりにおいて、今後ますます重要な役目をはたすと思う。