はじめに
貧困の解消が大きな社会問題として掲げられている動向を受けて、サポートファンドに、「国内における貧困の解消分野」が加わり4年目になります。ここ2年間は歴史に刻まれるような厳しい時期と重なりました。昨年2月に始まったコロナパンデミックは2021年に入っても収まらず、感染の拡大による生命の危機と、社会的経済的ダメージが広範囲に及んでいます。とりわけ、コロナ禍の前から顕在化していた貧困と社会的孤立という現象をさらに拡大するものでした。
これまで支援活動をしていた民間団体は、感染の広がりのなかで活動が困難になり、一時は活動を停止せざるをえない事態に陥りましたが、次第にwithコロナの手法を編み出し、活動を再開して今に至っています。コロナ禍のなかで、民間団体の活動は貧困や孤立に陥った人々を救済する極めて重要な役割を果たしてきました。このような状況のなかで国内助成の選考は行われました。
応募状況と選考のプロセス
新規助成は4月19日に公募を開始し、7月30日に応募を締め切りました。その結果、26件の応募がありました。その内訳は、「組織診断からはじめるコース」が12件、「組織基盤強化からはじめるコース」が14件でした。
継続助成は6月8日に応募資格を有する14団体に募集案内をし、8月31日に応募を締め切りました。その結果、10件の応募がありました。その内訳は、「助成1年目に組織診断を実施し、2年目に組織基盤強化を計画するもの」が6件、「助成1年目に組織診断、2年目に組織基盤強化を実施し、3年目に組織基盤の更なる強化を計画するもの」が3件、「助成1年目に組織基盤強化を実施し、2年目に組織基盤の更なる強化を計画するもの」が1件でした。
新規助成の選考は先ず、応募団体と応募内容について、事務局が応募要項に記載された応募要件のチェックを行い、「要件を満たしているもの」が21件、「要件を満たさないもの」が5件と判断されました。次に要件を満たしていると判断された21件すべてについて、選考委員長と選考委員4名が選考基準ごとに評価を行った上で、さらに総合評価を行い、評価した点や課題などのコメントをつけて事務局に提出しました。
継続助成の選考は、応募のあった10件すべてについて、選考委員長と選考委員4名が選考基準ごとに評価を行った上で、さらに総合評価を行い、評価した点や課題などのコメントをつけて事務局に提出しました。
10月5日に選考委員会を開催し、選考委員長と選考委員が参加して、新規助成と継続助成について事前に提出した評価結果をもとに審議を行いました。
その結果、継続助成は相対的に評価が高かった助成対象5件(内訳は1年目に組織診断を実施し2年目に組織基盤強化を計画する4件、1年目に組織基盤強化を実施し更に2年目も組織基盤強化を計画する1件)、助成総額859万円を決定しました。
なお、3年目の団体はこれまでの2年間の取り組みが評価されましたが、自力で取り組む力が付いている、3年目は新しいテーマで計画されている、組織の方向性が大きく変わっていると判断し、何れも採択に至りませんでした。また、2年目の採択に至らなかった団体は、組織診断で確認された課題と解決の方向性について、団体の関係者と更なる検証や共有を深めながら解決に向けて取り組んで欲しいと思います。
新規助成に関しては少なくとも選考委員1名以上の推薦が付いた案件が13件ありましたが、審議の結果、7件(採択5件、条件付き採択1件、次点1件)が選考ヒアリングの対象になりました。審議の際に選考委員が重視した点は、本事業の趣旨に合致していること、地域の他機関・団体との連携体制があること、事業内容が具体的で団体の実情が理解可能であること、貧困問題の解消等の目的やミッションが明確で社会的にも意味があること、課題解決の見通しがあることなどでした。
その後、事務局がリモートで団体のヒアリングを行い、11月10日に委員長はその結果を受けて、新規助成は助成対象5件(組織診断からはじめるコース3件、組織基盤強化からはじめるコース2件)、助成総額610万円を決定しました。
以上の結果から、2021年度の新規助成と継続助成を合わせた助成総数は10件、助成総額は1,469万円となりました。
選考結果からわかったこと
応募団体をみると、ある程度の実績を積み上げてきた団体が、たとえば「ミッション・ビジョンの共有体制が弱くなっている」「職員の力量がニーズに応えられない」「助成金頼りで財政基盤が不安定」などの課題を抱え、活動の棚卸をして新たなスタートをめざしていることがうかがわれます。団体のミッションを完遂するためには、めざしたい姿を明らかにし、組織基盤を強化することが不可欠です。ここに本事業が組織診断を経て組織基盤強化を図ろうとする団体の支援をする意義があると思います。
採択された団体の実践と組織基盤強化のテーマを見ると、継続助成の5団体は、「働くことに障害のある人を取り残さない支援が可能な組織づくり」「持続的な生活困窮者の支援が可能な組織づくり」「貧困対策をめざした精神障害者への対人支援サービスに必要な組織の基礎づくり」「死にたく思いつめる時の心の居場所づくりと相談体制の充実に向けた組織力アップ」「精神科病院における<関係性の貧困>解消に向けた権利擁護を拡充するための組織基盤強化」がテーマとなっています。
また、新規助成の5団体は、「里親家庭や児童養護施設等を巣立った人たちの安心できる生活と自己選択のできる社会づくりに向けた発信力の強化と支援者・協力者の拡大」「難民の法的保護と貧困解消に向けた継続的な支援を行うための支援者層の拡大」「デジタル性暴力や性産業における人権侵害など性的搾取被害の相談急増に対応できる人材や活動を支える自主財源の強化」「貧困課題を抱える子ども若者・家庭へのソーシャルワーク実践の安定化」「難病児支援拠点の拡大に向けた採用基盤の強化とビジョン・ミッションの再浸透、多職種連携」がテーマとなっています。
毎年のことですが、本助成事業の選考作業をするなかで、貧困というものが奥の深い現象であることを実感します。困窮と孤立の状態にある人々を少しでも減らすために、民間団体が果たす役割は大変大きいと思います。助成された民間が力をつけて各地で活躍することを期待しています。
<選考委員> |
★選考委員長 |
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宮本 みち子 |
放送大学 客員教授・名誉教授、千葉大学 名誉教授 ★ |
小河 光治 |
公益財団法人 あすのば 代表理事 |
奥田 知志 |
認定特定非営利活動法人 抱樸 理事長 |
吉中 季子 |
神奈川県立保健福祉大学 准教授 |
喜納 厚介 |
パナソニック株式会社 オペレーショナルエクセレンス社 |