はじめに
2020年2月に始まったコロナパンデミックは予想を超えて長期に及び、2022年の冬には第8波の到来が確実となるところまで来ました。3年近くに及ぶ感染との闘いに加えて、ロシアによるウクライナ侵略は終息の兆しが見えず多くの人命が失われ、その影響は世界中に広がり、各国において食料やエネルギー資源の価格急騰によって国民のくらしを不安に陥れています。
コロナ禍の前から顕在化していた貧困と社会的孤立という現象は、3年におよぶパンデミックのなかでより一層拡大し、低所得層だけでなく中間層の困窮も進んでいます。貧困への取組みをしてきた民間団体の多くが、コロナ禍のなかで一時は活動を停止せざるをえない事態に陥りましたが、2022年に入ってからはwithコロナの手法を編み出し、各地で活動を開催しています。これらの活動を通して、コロナ禍の爪痕の実態が明らかにされつつあります。「貧困の解消」に取り組むサポートファンドの使命をあらためて自覚するところです。
応募状況と選考のプロセス
新規助成は4月19日に公募を開始し、7月31日に応募を締め切りました。その結果、22件の応募がありました。その内訳は、「組織診断からはじめるコース」が11件、「組織基盤強化からはじめるコース」が11件でした。
継続助成は6月2日に応募資格を有する13団体に募集案内をし、8月22日に応募を締め切りました。その結果、8件の応募がありました。その内訳は、「助成1年目に組織診断を実施し、2年目に組織基盤強化を計画するもの」が4件、「助成1年目に組織診断、2年目に組織基盤強化を実施し、3年目に組織基盤の更なる強化を計画するもの」が3件、「助成1年目に組織基盤強化を実施し、2年目に組織基盤の更なる強化を計画するもの」が1件でした。
新規助成の選考は先ず、応募団体と応募内容について、事務局が応募要項に記載された応募要件のチェックを行い、「要件を満たしているもの」が19件、「要件を満たさないもの」が3件と判断されました。次に要件を満たしていると判断された19件すべてについて、選考委員長と選考委員4名が選考基準ごとに評価を行った上で、さらに総合評価を行い、評価した点や課題などのコメントをつけて事務局に提出しました。
継続助成の選考は、応募のあった8件すべてについて、選考委員長と選考委員4名が選考基準ごとに評価を行った上で、さらに総合評価を行い、評価した点や課題などのコメントをつけて事務局に提出しました。
9月29日に選考委員会を開催し、選考委員長と選考委員が参加して、新規助成と継続助成について事前に提出した評価結果をもとに審議を行いました。
その結果、新規助成に関しては少なくとも選考委員1名以上の推薦が付いた案件が12件ありましたが、審議の結果、8件(採択4件、条件付き採択2件、次点2件)が選考ヒアリングの対象になりました。審議の際に選考委員が重視した点は、本助成事業の趣旨に合致していること、地域の他機関・団体との連携体制があること、事業内容が具体的で団体の実情が理解可能であること、貧困問題の解消等の目的やミッションが明確で社会的にも意味があること、課題解決の見通しがあることなどでした。
その後、事務局が団体のヒアリングを行い、11月8日に委員長はその結果を受けて、新規助成は助成対象5件(組織診断からはじめるコース3件、組織基盤強化からはじめるコース2件)、助成総額651万円を決定しました。
継続助成は相対的に評価が高かった助成対象4件(内訳は1年目に組織診断を実施し2年目に組織基盤強化を計画する2件、1年目に組織診断、2年目に組織基盤強化を実施し、3年目に組織基盤の更なる強化を計画する2件)、助成総額770万円を決定しました。
なお採択に至らなかった団体は、組織の課題とその解決の方向性について、団体の関係者と更なる検証や共有を深めながら解決に向けて取り組んで欲しいと思います。
以上の結果から、2022年度の新規助成と継続助成を合わせた助成総数は9件、助成総額は1,421万円となりました。
選考結果からわかったこと
応募団体の設立後の年数をみますと、もっとも多いのが5年以上10年未満(40%)、つぎに多いのが3年以上5年未満(20%)と10年以上15年未満(20%)です。ある程度の実績を積み上げてきた団体が一度立ち止まり、今抱えている課題の解決に向けて活動の棚卸をし、つぎの段階に進もうとしています。「ミッション・ビジョンの共有体制が弱くなっている」「職員の力量がニーズに応えられない」「助成金頼りで財政基盤が不安定」などが典型的な課題といえるでしょう。その結果、応募事業の目標として、「中期ビジョン・中期計画の策定」「スタッフ強化」「財政基盤強化」「代表者個人の活動から組織の活動への転換」「組織全体で改革に取り組む」等が重要な柱となっています。
団体のミッションを完遂するためには、団体の実態を的確に把握し、めざしたい姿を明らかにし、組織基盤を強化することが不可欠です。この事業を進めるには、代表者だけでなく団体構成員の全員がこの取り組みの必要性と見通しを共有する必要があります。本助成事業は、持続性のある確実な力量をもって貧困対策に取り組むことができるように、組織診断・組織基盤強化を図ろうとする団体を支援するものです。
採択された団体の組織診断・組織基盤強化のテーマを見ると、継続助成の4団体は、「継続的に難民の貧困解消に取り組むための支援者獲得、および広報発信力の強化」「貧困課題を抱える子ども若者・家庭へのソーシャルワーク実践を安定して提供するための広報強化」「組織の成長フェーズの変化に伴う事業の推進と組織の基盤強化」「死にたく思いつめる時の心の居場所づくりと相談体制の充実に向けた組織力アップ」がテーマとなっています。
新規助成の5団体は、「自立に向けた生活困窮者支援事業を持続的に行うための組織基盤の強化」「不登校の子ども達が学校外で育つ居場所を持続的に運営するための組織体制づくり」「制度からこぼれ落ちてしまう人の受け皿となる地域の「居場所」づくりに向けた基盤づくり」「日本語を母語としない子どもとその家族を支えるための持続可能な組織体制と財政基盤の強化」「孤立している子どもや若者を地域で支える仕組みづくりと安定した運営体制の構築」がテーマとなっています。採択された団体は、多様な関係機関と連携および協力体制を築いていて、地域からの信頼も得ています。このような団体がこれからも持続性のある活動を続けていくためには組織基盤を強化する取組みが不可欠だと思います。
今回を含めて5年間にわたる「国内における貧困の解消分野」で助成を受けた団体の活動を見ますと、テーマが多様化し、制度の狭間で苦しむさまざまな人々に手を差し伸べる活動が各地に広がっていることを実感します。現下のコロナ禍にもインフレーションにも負けないために、民間団体が果たす役割は大変大きいと思います。助成された団体がより一層力をつけて各地で活躍することを期待しています。
<選考委員> |
★選考委員長 |
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宮本 みち子 |
放送大学 名誉教授、千葉大学 名誉教授 ★ |
小河 光治 |
公益財団法人 あすのば 代表理事 |
奥田 知志 |
認定特定非営利活動法人 抱樸 理事長 |
吉中 季子 |
神奈川県立保健福祉大学 准教授 |
東郷 琴子 |
パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社 |