FoEは1971年、米国の環境活動家ディビッド・ブラウワーの提唱によって創設された国際環境NGOです。そして1980年、日本のメンバー団体として設立されたのがFoE Japanです。現在、加盟団体のネットワークは世界74カ国に広がっています。気候変動、森林保全、途上国の開発による環境影響、廃棄物といったグローバルな問題に対して調査・分析を行い、現地の声や情報を日本国内に伝えるほか、これらの解決、改善に向けた政策や取り組みを政府や企業に提言したり、市民にライフスタイルの転換を提案する活動などを行っています。
その組織づくりにマーケティングの手法がどのように活かされたのか、話を聞きました。
顧客情報をデータベース化し、 イベント参加者を支援者へとつなげる
FoEはその活動規模において、WWFやグリーンピースと並ぶ世界三大環境NGOの一つに数えられています。日本を拠点とするFoE Japanも精力的な活動を展開しており、現地調査報告会や温暖化問題についての勉強会といったセミナー形式のイベントは年間100回以上も開催されています。
総務・運営担当 篠原ゆり子さん
順調に活動してきたかに見えるFoE Japan ですが、実は2005年にPanasonic NPOサポートファンドの助成を活用し、組織基盤強化に取り組んだことがあります。総務・運営を担当する篠原ゆり子さんは当時の状況をこう振り返りました。
「FoE Japanは世界三大環境NGOの一つと称されるわりには認知度が低く、不安定な財政状況にありました。当時から、さまざまなテーマのイベントを開催してはいましたが、参加者についての情報の共有が組織内でまったくなされていませんでした。同じ人が複数のイベントに参加していることさえ把握しきれず、せっかくのイベント参加者を支援者へとつなげることができずにいました」
事務局長 三柴淳一さん
その背景には、もう一つの課題がありました。事務局長の三柴淳一さんによれば、「当時は活動テーマごとのチームに分かれ、それぞれがファンドレイジングを行い、独立採算形式で運営していた」といいます。財政的に厳しいチームは給料を減額することもあり、活動の継続性に大きな不安を抱えていました。
会計の一元化などの組織改革を進める中で受けることとなった2005年の助成では、情報共有の一環として、イベント参加者情報のデータベース化に取り組みました。
ファンドレイジングに欠かせない 「私たちとは何者か」の説明
当初は「支援者を増やしたい」との思いから取り組んだ組織基盤強化でしたが、その過程で「FoE Japanとは何者なのか」という新たな問いを突きつけられたと三柴さんはいいます。以来、その問いに答えを出そうと、たび重なる組織改革を試みてきましたが、なかなか成果をあげることはできませんでした。
昨年5月に企業を退職し、ボランティアとしてFoE Japanに関わり、現在はスタッフとして働く矢野恵理子さんも「せっかく有意義な活動をしているのに、何をやっている団体なのか外部にうまく説明できないもどかしさ」を感じてきました。
「東日本大震災以降、福島の子どもたちのために何かできないかとずっと考えていて、FoE Japanにたどり着きました。こんなにいい活動をしているのに支援が集まらないと聞いて驚きました。これまでにも、さまざまな団体で活動をし、ファンドレイジングも経験しましたが、支援者を増やすには、まず自分たちのことを説明できなければいけません」
篠原さんによれば、「それぞれのスタッフは森林保全、脱原発、途上国の開発など、自分が関わっているテーマについてなら説明できるのに、FoE Japanとは何者か、何を目指しているのかと問われた途端、口をつぐんでしまう状態」でした。これを解決するには、マーケティングの手法が必要なのではないかと考えた篠原さんらは2013年のマーケティングプログラムに応募し、半年にわたって取り組むこととなりました。
被災者支援コーディネーター
矢野恵理子さん
4000人へのアンケートで「顧客」と「顧客価値」を知る
プログラムでは、まず「顧客リサーチ」として会員や寄付者のデータを分析しました。その結果、「子どもをもつお母さん」が大半なのではないかと予想していたのに反し、「30代、40代の働き盛りの男性」が多数を占めていることがわかりました。
「これまでは女性を意識して、私たちの思いを伝えることに比重を置いてきましたが、男性に訴えるには、データや活動の成果などもより積極的に伝えていく必要があることを認識させられた」と矢野さんはいいます。
さらに「顧客」と「顧客価値」を知るために、これまでの会員や寄付者、イベントに参加したことがある方など4000人を対象としたアンケートをWEBや郵送、イベント会場などで実施しました。
その回答からは、多くの人がFoE Japanの提供する情報に信頼を寄せ、活動に共感している様子がうかがえ、「私たちの活動は間違っていない」との確信を得ることができました。
また、イベントに期待することとして複数の人が「会社などでは話題にしにくい原発や環境問題について参加者同士で話し合える場がほしい」と要望していることがわかりました。これに対し、FoE Japanでは「イベントの後半に、近くの人と意見交換する時間を設ける」「参加者が語り合うセミナーを開催する」といった工夫をすることで、要望に応えていくことにしました。
「該当項目にただ丸をつけるだけではなく、ここを改善したほうがいいという具体的な提案をびっしり書き込んでくれた方も多くて、距離がぐっと縮まったのを感じました。このようなアンケートを定期的に実施することで、ニーズの変化をとらえ、イベントにも反映していきたい」と矢野さんは、今後の活用法について話しました。
社会人サポーターが引き出してくれた 当たり前だと思っていた長所
当初はおもに5人のメンバーが中心となってマーケティングプログラムに取り組み、それ以外のスタッフは「これをやって、どんな成果が得られるのか」と懐疑的でした。しかしプログラムが進むにつれて、ほかのスタッフから建設的な意見が出るようになり、うまく周りを巻き込んでいくことができたと矢野さんは振り返ります。
スタッフの意見やアンケート結果、会員・寄付者からの声は最終的に「FoE Japan全体の活動スタイルやミッション」「その上に展開される個々の活動」がひと目でわかる「活動概念図」に集約されました。
「ここまでたどり着けたのは、プログラムを支えてくれた社会人サポーターの力が大きかったと思います。とにかく褒めてくれたし、自分が納得いくまで、わからないことをとことん質問してくれました。おかげで、自分たちが当たり前だと思っていた長所をどんどん引き出すことができました」と篠原さんはいいます。
また三柴さんは、5月に行われたプログラムの基本研修で講師を務めた多摩大学総合研究所教授・松本祐一さんのひと言ひと言が頭から離れず、「ここのことを言っていたのか」と折に触れて思い出しながら、プログラムに取り組んだそうです。
完成した「活動概念図」は「私たちはこういう団体だったんだ」と内部で共有する際に役立つだけでなく、イベントの団体紹介などで支援者を増やしていくツールとしても活用されています。
2013年11月30日に都内で開催された「NPOマーケティングフォーラム2013」の成果報告会でも披露されましたが、発表を聞いた一般参加者からは「初めは顧客視点で考えていたのに、途中から団体視点に戻ってしまっている」との指摘も出されました。これを受けて篠原さんらは「活動概念図」をさらにブラッシュアップ。活動に参加する人の視点に立ち、「参加者が問題を知り、広めることで同じ思いの人とつながって声をあげる。その声が大きくなれば、政府や企業をも動かすことができる」というメッセージや、「声をあげたことで、これまでに実現してきたこと」「今あげている声」がより伝わる表現に改めました。また、イベント参加者を支援者にするためには、より丁寧なコミュニケーションと継続的なアプローチが不可欠と、スタッフ全員が意識して実践していく体制づくりにも取り組み始めました。
やりたい思いに応えてくれるサポート体制を実感
最後に篠原さんは、マーケティングプログラムを終えた感想を次のように話してくださいました。
「6団体で一緒に取り組んだことが大きな励みになりました。自分たちだけでは、とてもここまで踏ん張れなかったと思います。あらゆる分野の専門家がサポーターとして支えてくださったので、疑問に思ったことは何でも質問することができました。学びを団体間で共有しながら、ときには叱られながら、半年間ここまで見届けてもらえるプログラムはなかなかありません。やりたい思いに応えてくれる、がっちりしたサポート体制を実感しました」
◆Panasonic NPOサポート マーケティング プログラム◆
NPOがマーケティング力を身につけ、そのノウハウを個人のスキルに留まらせず組織全体で共有し活用して、組織が抱える様々な課題を自力で解決できるようになることを目指し、マーケティングの研修と個別支援を行っています。
2008年から特定非営利活動法人NPOサポートセンターとパナソニックが協働で実施し、これまでに52団体が参加してマーケティング力導入による効果をあげています。
2014年4月12日(土)にNPOマーケティングの理解を深めていただくための入門研修を行います。
2014年度のマーケティングプログラムへの参加を検討されている団体の皆様はぜひご参加ください。