認定NPO法人 地球市民の会の組織基盤強化ストーリー

“地球市民”を増やして世界の平和につなげる
3年間の組織基盤強化で新体制を構築

認定NPO法人 地球市民の会

40年にわたって、アジア諸国への支援や国際交流を続けてきた「地球市民の会」。対話により理事会と事務局との理解や連携を深め、新体制を構築するまでの3年間の組織基盤強化の取り組みを聞いた。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第479号(2024年5月15日発行)掲載内容を再編集しました]

留学生との交流が活動のきっかけ
目指すのは“循環型共生社会”

「地球市民の会」は佐賀県を拠点に、国際協力や国際交流事業に取り組んでいるNPO法人だ。事務局長の岩永清邦さんによれば、「空手家でフランス留学の経験をもつ古賀武夫が、世界中の人が『他の人の幸せを自分の幸せとして感じられる人=地球市民』となることを目的とし、1983年に設立しました」という。

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認定NPO法人 地球市民の会
事務局長 岩永 清邦さん

その活動の変遷を事務局次長の藤瀬伸恵さんが説明してくれた。「日韓の国際交流から始まって、日本に来ている留学生にホームステイを体験してもらう活動へと発展しました。また、タイのソーシャルワーカーと出会った創設者の古賀は、タイの農村地域を訪問。授業料や学用品を用意できず、十分に教育を受けることができない子どもたちの現状を見て、奨学金の支援を始めました。その後、ミャンマーの少数民族のリーダーと出会い、『食べ物をくれるより、つくり方や調理法を教えてほしい。そうでないと、口を開けて待っているだけの民族になってしまう』という彼の言葉に感銘を受けました」

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認定NPO法人 地球市民の会
事務局次長 藤瀬 伸恵さん

それ以降、ミャンマーの農村地域では生活向上のための循環型農業研修や学校建設、小規模水力発電による電化・給水設備の開発支援をしているが、「地域を自分たちでよくしようと考えて活動する人たちを応援したいので、学校建設費の25%は村に負担してもらい、給水や電気も現地で管理してもらうようにしています」と藤瀬さんは話す。
そして、年に2、3回はスタッフや支援者が現地を訪れるスタディツアーも実施してきた。「学校建設に寄付してくれた方は、現地の人々との触れ合いに感動して『支援させてくれてありがとう』とお礼を言っていました。“循環型共生社会の創造”をテーマに活動していますが、まさに互いの暮らしに学び合い、感謝も循環しているのを感じます」

さらに、地元である佐賀市の中山間地域でも、人口流出による担い手不足や空き家、耕作放棄地などの問題を解決するために、佐賀・福岡県内から小学生を招いてキャンプを開催したり、県外からの移住希望者に空き家をマッチングしたり、希望者を募って耕作放棄地を開墾する活動を展開している。

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小学生を対象にした佐賀富士町での農業体験

コンサルタントが3年間伴走
会員や支援者もアイデア出し合う

こうして財政的には安定してきた地球市民の会だったが、2008年に創設者が亡くなると求心力が低下。「ピーク時には千人いた会員が年々減少し、高齢化も進みました。それでもなんとか合議制で運営してきましたが、事務局が新しく取り組みたいことと理事会のこれまでのやり方のギャップが明らかになり、今後の方向性が見えにくくなっていました」と、藤瀬さんは当時を振り返る。
そこで地球市民の会は「NPO/NGOサポートファンド for SDGs」に応募し、コンサルタントに加わってもらい、組織診断を行った。「理事やスタッフほぼ全員にヒアリングした結果、私たちは“課題解決型”の団体を目指してきましたが、実際は社会に対して新しい価値を提案、提供する“価値創造型”だったことが判明しました」

さらに、「理事が高齢化し、専門性が欠如している」「事務局がやりたいことが実現できない」といった課題も見えてきたため、理事会と事務局混合で「理事会の新体制づくり」「新規事業の開発」「評価の仕組みづくり」という3つのタスクフォースチームをつくり、対話を重ねた。
2年目は、団体がどこを目指し、何を達成すればゴールに近づいていると言えるのかを明らかにするために「中期計画」を策定。理事会と事務局全体に対する「システムコーチング」を行い、ワークショップ形式で、普段は言えない本音を引き出していった。
そして理事やスタッフだけでなく、会員や支援者も実現したいアイデアを出し合い、ブラッシュアップしていく「地球市民チャレンジサポートプロジェクト」という仕組みをつくった。「そこから、海底火山の大規模噴火により被災したトンガでの奨学金の支給や、ミャンマーのコーヒーを日本で販売する事業が新たに生まれています」

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基盤強化ワークショップの風景

世代を超え、組織内で重ねた対話
数百人規模のイベント企画も実施

3年目は、これまで団体とかかわりのあった人たちとのつながりを取り戻すために「地球市民アンケート」を実施。アンケートの結果を共有し、意見や希望を聞く場として「地球市民ダイアログ」を全国3ヵ所とオンラインで開催した。「最盛期には全国にあった支部を復活させる狙いもあり、これを機に、休止状態だった岐阜支部が再始動に向けて動き出しました」
続いて、40周年を記念して開催した「地球市民カンファレンス」には100人を超える新旧の支援者が参加し、大同窓会となった。「地球市民チャレンジサポートプロジェクト」には、クラウドファンディングを支援する「クラウドファンディングサポートプログラム」も新設され、やりたいことを実現しやすい雰囲気が醸成されていった。
「団体の舵を取る私たち中間管理職のスタッフは、コンサルタントによる『リーダーシップ開発コーチング』を受け、生い立ちからライフプランに至るまで、自分自身を掘り下げていきました。3年間を通して、自分たちが動くことで、団体の状況を変えていけることが実感でき、この会を担っていく覚悟が決まりました。表面的な事業の話だけでなく、深い話までできるようになったことで相手の内面まで知ることができました。事業優先で後回しになりがちだった組織づくりにも、第三者が入ることで時間をかけて取り組めました」と岩永さんは振り返る。
「さらに、会員を増やしていくための『地球市民拡大委員会』を立ち上げ、専任の理事を置きました。全国を回って、事務局ではとても手が回らないような百人規模のイベントを企画してくれたりもしています」
最後に、藤瀬さんはこの3年間の取り組みで新たな道が開けてきたと話す。「私たちの団体には理事会と事務局の対話の文化がなかったので、外部のコンサルタントが2人も入ってくれたことで、時には私たちが言えないことも代弁してくれて、本当にありがたかった。課題がヘビー過ぎてエネルギー切れした時も、課題を整理し、何ができるか懸命に考えてくれました。現理事から若手の新理事へ理念を継承しながら会のパフォーマンスを上げていく“世代融合”が一番の課題でしたが、今年2月に事務局の思いを伝える形で、理事会に世代融合を前提とした新体制を提案したところ、大筋で合意をもらうことができました」

(団体プロフィール)
認定NPO法人 地球市民の会
地球市民運動を通じて世界の平和に貢献するために、タイ・スリランカ・ミャンマー・トンガでの国際協力事業、韓国・中国との国際交流事業、子どもの居場所づくり、SDGs・多文化共生推進事業、災害支援、講演活動などを行っている。