認定NPO法人 豊島子どもWAKUWAKUネットワークの組織基盤強化ストーリー

町に「おせっかいの輪」を広げ、
子育て世帯を支援
組織ビジョンを策定し、地域との連携強化へ

認定NPO法人 豊島子どもWAKUWAKUネットワーク

東京都豊島区で困窮する子育て世帯を支援してきた「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」。組織診断と組織基盤強化を経て、ビジョンを共有し、事務局体制を強化したことで、どんな変化が生まれたのだろうか?
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第481号(2024年6月15日発行)掲載内容を再編集しました]

学習支援、子ども食堂、食料支援
200人のボランティアが活動に参加

現在「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク(以下WAKUWAKUネットワーク)」の理事長を務める栗林知絵子さんは、2004年から東京・池袋で、子どもが自発性を発揮して自由に遊べる「プレーパーク」の活動にかかわってきた。

「そこで出会った中学3年生の男の子が、小学校低学年の勉強からつまずき、ひとり親のお母さんはダブルワークで忙しく、いつも一人でコンビニ弁当を食べているというので、私の自宅で学習支援を始めました。地域で模擬試験の費用を募ったところ、10万円以上のカンパが集まり、その後、彼は見事に高校に合格。残ったお金をもとに、見かけではわからない困難を抱えた子どもたちに何かできないかと地域の人たちに呼びかけ、2012年にWAKUWAKUネットワークを設立。小学生からの学習支援と子ども食堂を始めました」
活動はさらに、外国にルーツをもつ子どもの日本語学習支援、乳幼児子育て世帯を地域のボランティアが訪問して傾聴と子育てを協働する「ホームスタート」、親子関係に悩む子どもが無料で寝泊できる「WAKUWAKUホーム」へと広がっていった。

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認定NPO法人
豊島子どもWAKUWAKUネットワーク
理事長 栗林 知絵子さん

「WAKUWAKUホームには精神保健福祉士の資格を持つ副理事長が常駐していて、高校生が1年以上住んでいたこともあります。特別支援学校高等部の子で、ひとり親のお母さんが緊急入院し、一人で暮らしていることを学校が知りました。家に近かったWAKUWAKUホームで預かることになり、ホームから通学。ここでいろいろな人とかかわる中で表情がどんどん明るくなって、就職してからも、週末になると実家のように遊びに来ます」
そして、コロナ禍が始まった2020年の3月からは豊島区内の13ヵ所に拠点をつくり、経済的に苦しい約600世帯の子育て家庭に毎月、食料品を手渡してきた。「これをきっかけに一緒に行動してくれる人が増え、今は常時200人くらいがボランティアとしてかかわっています」
さらに、子育て世帯からの住まいに関する相談も増えてきたことから、東京都居住支援法人の認可を受け、住まい探しのサポートもしている。

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ある日のWAKUWAKUホーム

組織の内部・外部環境を洗い出し
3年毎の中期ビジョンを策定

お金を介さない関係を大切にしてきたWAKUWAKUネットワークでは、みんなが対等に、できることを持ち寄って組織を運営してきた。そのため、「事務局の統括をする人が不在で、みんなの思いは一つだけど、組織としての明確なビジョンがなかった」と栗林さんは言う。
そこで栗林さんらは、ビジョンを策定して事務局体制を整備するために「NPO/NGOサポートファンド for SDGs」に応募。認定NPOの法人格取得や安定的に寄付が集まる仕組みづくりも目指し、組織診断と組織基盤強化に取り組むことになった。
「伴走支援は、『認定NPO法人シャプラニール=市民による海外協力の会』代表で市民同士がつながる地域活動にも力を注いでおられた坂口和隆さんと、認定取得に必要なことや事務局体制などについてアドバイスをくださるNPOコンサルタントの方にお願いしました」
2020年の組織診断では、組織の内部・外部環境を洗い出して分析し、理事全員へのアンケート調査と活動参加者へのヒアリングワークショップを実施。その結果、明らかになった優先課題と今後の強化計画を共有する中間報告会を開き、さらに話し合いを重ねた。「コロナ禍が始まったことでみなさんの予定が空いて、多くのボランティアさんと一緒に考えることができました」
翌2021年には、これを実行に移す基盤強化に取り組んだ。
「経済的な貧困だけでなく、つながりの貧困も解消していくためには、地域みんなが“おせっかい”し合える関係になることで、無関心ではない社会をつくることが大事だと考え、『おせっかいの輪を広げる』という3年間の中期ビジョンを策定しました。

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豊島区の掲示板で「おせっかいさん」を募集

コロナ禍のような予測もつかないことが今後も起こると思うので、10年の長期ではなく、3年という中期のビジョンをつくって、適宜見直していくことにしました。豊島区のすべての掲示板に『おせっかいさん募集』というチラシを貼らせてもらい、スマホからも簡単に申し込めるようにしました」
この取り組みはさらに、「おせっかいされた子どもや親御さんが、子どもが大きくなったのを機に、今度は自分が地域の『おせっかいさん』となって、おせっかいを返していく活動」へと発展した。

基盤整え、認定NPO法人格を取得
中間支援的な活動にも力を入れたい

さらに、活動や価値観を外部に伝えるために、円卓会議を年に1、2回開催することに。「行政の部課長、町会や民生委員児童委員協議会といった地域組織の会長、NPOや企業の方たちに集まってもらい、食事をしたり、地域の事例を検討したりしました。メモは取らず、本音で語れる会議にしたことで、その後にコロナ禍の食料支援を始めた時も、声をかけるとすぐに協力してもらえる関係性が生まれました」
市民による食料支援は、行政にひとり親のニーズを伝え、広報や会場提供などの官民協働の関係作りにつながった。その後、豊島区は「としま子ども若者応援基金」を設立し、今では、長期休みのたびに、支援を必要とする子育て世帯に食品を提供しているという。
「『今日はお米の日だね』と、食品の受け取りをイベントのように楽しんでいる親子もいます。コロナ禍の前にも、ホームレス状態の方への炊き出しはありましたが、この4年間で、子どもや若者にも食料支援を実施しやすい社会をつくることができたのではないかと思っています」
事務局体制の強化として、常勤スタッフの配置も実現。「行政と連携していく上で、個人情報の管理方法を見直す必要が出てきて、寄付者の情報や受益者の情報を顧客管理システムで管理していくことになりました。現場好きばかりが集まってつくったNPOだったので、組織運営や事務作業への関心が薄かったのですが、外部から専門家が入ったことで組織を客観視でき、事務局は4人体制に。弁護士の理事が中心となって書類の準備やチェックも進め、2022年に認定NPO法人格を取得できました」

こうして組織の基盤が整ったところで、また次の中期ビジョンを考えるタイミングがやってきた。「コロナ禍によって、人とのつながりや経験の機会をなくした子どもたちのために、町中に、小さくてもいいからたくさんの居場所が必要です。その居場所をつくる人たちを応援する中間支援的な活動に力を入れていきたいと思っています」

(団体プロフィール)
認定NPO法人 豊島子どもWAKUWAKUネットワーク
さまざまな居場所を通じ、信頼できる大人や若者とつながることで子どもの人生が変わると信じて、地域の子どもを地域で見守り、学びや暮らしを支えるネットワークづくりに取り組んでいる。