Panasonic Scholarship Alumni  パナソニックスカラシップ体験者が語る未来へのメッセージ

振り返れば大きなチャンスとなった日本への留学。
日本と母国。そして母国と世界の橋渡しを担う。

○グエン・タン・チュンさん
2007年認定 → 大阪大学入学(工学研究科 環境エネルギー工学)→ 現在日本企業のベトナム現地法人の設立・経営に携わる

今回ご登場いただく、グエン・タン・チュンさんには、ベトナムのハノイ近郊からリモート取材に応じていただきました。パナソニック スカラシップ奨学生として大阪大学に留学。修士課程を修了して就職した日本企業のベトナム現地法人設立を担当し、2020年から母国で事業を担っています。取水・浄水など、水質向上に関わる環境設備の製造・販売をベトナム国内へ、さらに日本へ、そして世界へと広げるために活動中です。異なる環境、異なるコストパフォーマンスへのニーズの中で、誰もが必要とする「水」を高い品質で届けたい。その思いを実現するための行動力・適応力は、海外留学へ一歩踏み出せた経験から得たものだと言います。

子どもの頃から関心があった環境対策の技術を学びたい

ハノイの大学で化学を学んでいたグエンさんは、子どもの頃から環境について興味を持っていました。それは父親の姿を見て影響を受けたからだそうです。

グエンさん:父は、環境汚染対策の仕事に携わっていたことがあります。その姿を見て、環境を改善する技術に関心を持ち、自分もそうした取り組みに関わっていきたいと考えるようになりました。大学卒業後は、海外に留学し新しい技術を学びたい。そんな私を、中国への留学経験を持つ姉や両親も応援してくれました。

積極的に海外留学を準備し、米国、日本、韓国、オーストラリアなどの国々の留学制度を調べている時に、大学の指導教員からパナソニック スカラシップを勧められたそうです。パナソニックのベトナム現地法人が窓口となりハノイの各大学に募集を案内していたのです。

グエンさん:指導担当の先生は日本への留学経験もあり、日本での生活や大学の研究環境のことも詳しく教えてくださり、「ぜひ行くべきだ」と勧めてくれました。私自身も、日本が1960年代の急激な工業発展の中で公害など環境問題に苦労したこと、その後、高い技術力で環境の改善に取り組んできたことを知り、どうやって改善してきたのか? どんな技術を役立てたのか? それを自分の目で見て学びたいと思い、パナソニック スカラシップに応募しました。

大学内での一次審査、さらにパナソニック スカラシップによる認定を得て、2007年の春に来日。大阪大学の研究室で、排水からエネルギーを作る燃料電池の研究に取り組みます。大阪での生活は、奨学金制度によって学業に集中できるのと同時に、整備された鉄道、街中にあるスーパーマーケットやコンビニエンスストアなど、「便利さ」や「快適さ」と「エネルギー」について、学問と実生活を結び付けて考える機会となりました。

グエンさん:それ以外にも留学生活は刺激的で、たくさんの思い出があります。パナソニック スカラシップの事務局が主催するサマーセミナーで留学生同士が国境を越えて交流を持ち、パナソニックから科学技術に関する権威ある「Japan Prize(日本国際賞)」の式典に招待いただき世界的な研究の先端に触れることができました。また、留学生同士で毎年春に行った花見も素敵な思い出です。大阪の箕面や大阪城、そして京都の美しい春を満喫しました。

Japan Prize:「世界の科学技術の発展に資するため、国際的に権威のある賞を設けたい」との政府の構想に民間からの寄付を基に設立。全世界の科学技術者を対象とし、独創的で飛躍的な成果を挙げ、科学技術の進歩に大きく寄与し、もって人類の平和と繁栄に著しく貢献したと認められる人に与えられる。

写真:大阪府吹田市の吹田祭に留学生友達と御神輿(2008年)

留学中、国境を越え、多くの留学生と交流できたことが何よりの思い出とグエンさんは語ります。

東日本大震災で実感した水の大切さ

無事、修士課程を終え、帰国の日が近づく頃、環境とエネルギーの設備の企業が将来的にベトナムに現地法人を設立したいと計画していることを知り、その会社を訪問することに。

グエンさん:ベトナムに帰国することになっても環境に携わる会社で働きたいと考えていました。就職するとき、私がパナソニック スカラシップの留学生であることを会社側に伝えると、そのことをまず高く評価いただき、とても好意的に応対してくれました。そこから今につながる私の仕事や人生を振り返ると「パナソニック スカラシップ」がいかに大きなチャンスであったのかとあらためて感謝しています。

環境設備の会社で働くことで、グエンさんのそれまでの学びは、一気に社会や暮らしに結び付く技術としての実感を増していきます。2010年に入社。最初の1年間は技術部に配属され、設備の設計から現場での組み立てまでを担当しました。

グエンさん:現場でまず理解したことは、お客さまに設備を使ってもらうために、まず自分がその仕組みを深く理解することの大切さです。日本の夏の暑さも冬の零下の寒さもベトナムとは異なる環境でしたが、そこで作業をし、お客さまと対話を重ねる中で、どんなニーズがあり、どう応えるべきかを学んでいきました。

そうした実践で学ぶ日々の中で、2011年3月11日、東日本大震災が発生しました。日本全体が、あらためて環境、水、エネルギーについて見つめ直す姿を目にしたグエンさんは、この経験を母国ベトナムの現状の課題解決に役立てていこうと考えたそうです。

日本の工業の品質を世界のニーズに合わせて届ける

技術部の後には米国への販売を担当する営業も経験。会社は2014年からは、念願の母国に向けた営業も担当します。そして、会社は2020年の開業を目標にベトナムに現地法人を設立することになり、グエンさんはその中心となって、立地、法制や税制への対応などに取り組むことになりました。

グエンさん:日本であれ、米国であれ、母国のベトナムであれ、何かを始める時は常に新しい環境での挑戦です。慣れないことばかりなのですが、そのたびに私は、日本での生活を始めた頃を思い出します。来日前に独学したとはいえ、日本語はほとんどできませんでした。けれども「何とかなる」と前に進むことができました。それはパナソニック スカラシップという大きなサポートがあったからこそですが、その安心感の中で経験と自信を得ることができたのが大きかったと思います。

グエンさんは、これまでの経験をこれからの仕事や事業の拡大に生かす上で、留学経験で実感した「違うけれど、本質は同じ」という価値観を大事にしていきたいと言います。

グエンさん:環境は国により、土地によりさまざまです。でも、そこで暮らす人々の「良い水が欲しい」という願いは同じです。そして日本の技術はそれを提供できる高い品質を持っています。ただし、求めるコストパフォーマンスはそれぞれ異なり、それがニーズの一部でもあるのです。そこを理解し、調整し、必要な設備を届けるための橋渡し役を担っていきたいですね。

現在はベトナムで暮らす中でも、工業団地の日本法人社員との交流会を持ちながら、日本との関わりも保っているそうです。それは、まだまだ日本から学び、それをベトナムの発展に役立てたいという願いがあるから。

グエンさん:日本の工業の品質へのこだわり、組織づくりなどは、ベトナムの会社や工場が採り入れるべき点です。得に日本の工場の品質管理・業務管理の改善に用いられるPDCAサイクル(Plan:計画、Do:実行、Check:評価、Action:改善)は重要です。また、ITやAIも私自身がこれからさらに理解を深め、設備の運用や自動運転などの新しい技術をベトナムから世界に発信していけるようにしたいと思っています。

パナソニック スカラシップにより、人生の大きな一歩、そしてさらなる一歩が得られたと振り返るグエンさんは、若者たちにも言葉を寄せてくれました。

グエンさん:未知の分野は今の自分とは関係ないと思うかもしれません。しかし、環境、経験、苦労、すべて未体験のことが、未来の自分に役立つ日が必ず来ます。機会があれば、一歩踏み出し、参加し、経験するチャンスを手にしてほしい。何年か後にそれが自分にとって必要だったと実感できるはずです。

写真:ベトナムハノイ市に会社技術を導入した浄水場 (2022)

現在も日本との関わりを深めているグエンさん。