2021年7月12日から15日までの4日間、Zoomウェビナーにて「Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGs 20周年記念 シンポジウム・ウィーク」を開催しました。パナソニックの主催、パナソニックが展開する各プログラムの協働先との共催、公益財団法人 助成財団センターの後援による開催で、「NPO/NGOの組織基盤強化を考える4日間~社会変革を生み出せる組織へ~」と題して、6つのセッションをお届けしました。
初日となる12日のオープニングセッションには、265人の参加の申し込みがありました。この日は、これまでの20年間にサポートファンドが果たした役割、20年の節目評価から見えてきたプログラムの意義や価値について、長年サポートファンドを支えてきた山岡 義典 氏とプログラム評価を担当した田口 由紀絵 氏を迎え、講演・対談をしていただきました。

●開会の挨拶

コロナ禍の今こそ、パートナーシップでSDGsの目標を達成

サポートファンドは、これまでに426件の助成をしました。今回のシンポジウム・ウィークでは、この間に生まれた、人と組織にまつわるすばらしい物語の一端に触れていただければと思います。コロナの影響で貧困や格差がさらに広がり、環境、医療、教育などの社会課題が浮き彫りになっています。人々の働き方も大きく変わりました。当社は週休2日制を日本で最初に採り入れた企業ですが、人生100年時代の今は自分でキャリアを築く時代です。NPO/NGOの活動やボランティアに携わっている人ほど、キャリア展望も高く描くとの調査結果もあるようです。SDGsの17番目には「パートナーシップで目標を達成しよう」という目標が掲げられています。当社も、あらゆるステークホルダーの皆さんとパートナーシップを組んで、社会課題の解決や社会の発展に貢献していきたいと考えています。

パナソニック
執行役員 三島 茂樹

●20周年に寄せてのメッセージ

社会貢献活動のパイオニアとして、これからも期待

20周年、おめでとうございます。サポートファンドは、企業による社会貢献活動の道を切り拓いてこられました。20年前の立ち上げ当初、私も審査員として関わらせていただきましたが、組織基盤強化支援の見極めの難しさを感じました。その後、組織診断や第三者の視点を採り入れた仕組みを導入され、組織基盤強化の流れを可視化したことは大変意義深かったと思います。また、NPO/NGOの潜在的な力を引き出すだけでなく、社員の皆さんが社会課題に触れる機会にもなっていることは、SDGs時代の社会貢献活動の可能性を感じさせます。これからも社会貢献活動のパイオニアとして、新たな要素を示してくださることを期待しています。

一般社団法人
日本経済団体連合会 SDGs本部
統括主幹 長澤 恵美子 氏

●パナソニックの企業市民活動のご紹介

グローバルな課題「貧困の解消」に3つの切り口で挑む

103年前に松下 幸之助が家族3人で創業し、今では24万人以上がグローバルに働いているパナソニックは「企業は社会の公器であり、事業を通じて、人々の暮らしの向上と社会の発展に貢献する」という経営理念に沿って、事業活動とともに企業市民活動においても社会課題の解決に取り組んできました。グローバルな課題のどこに焦点を当てていくか考えていた2015年、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」が設定されました。

パナソニック CSR・社会文化部
部長 福田 里香

17の目標のうち1番目の目標に、他の項目とも深く関わる「貧困をなくそう」があり、創業者も「企業の社会的使命は『この社会から貧困をなくすこと』」と言っていたことから、「貧困の解消」を重点テーマに、人材育成、機会創出、相互理解という3つの切り口でその解決に向けて取り組むことにしました。とはいえ、NPO/NGOの皆さんとの協働がなくては何もできません。これからも皆さんとご一緒に、活動を進めていければと思います。

●「Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGs」とは

組織基盤強化への助成、中間支援組織との協働運営が特徴

サポートファンドでは2001年に子ども、2002年に環境、2010年にアフリカ分野を設立し、創業100周年の2018年に「貧困の解消」がテーマのプログラムに改定しました。第一の特徴は組織基盤強化への助成であることです。第三者の伴走支援や、組織運営上の課題を抽出して解決へと導く組織診断の仕組みをもつ、最長3年の継続助成のプログラムで、終了から1年半後に事業評価を実施しています。

もう一つの特徴は、中間支援組織と協働で企画・開発・運営していることで、内容も5年ごとに改定してきました。またSROI評価では、助成による社会的インパクトが投入額の8.82倍との結果が得られ、イギリス「Social Value International」のアシュアランスを日本で初めて取得しました。2020年には2011年以降の助成団体をフォロー調査し、2021年は「for SDGs」の事業評価に取り組みます。この20年の間にサポートファンドを中心に、組織基盤強化をテーマにプログラムを拡充し、その有効性をシンポジウムで感じていただけば幸いです。

●基調講演

NPOの成長とともに歩んだ
組織基盤強化助成プログラムの20年

特定非営利活動法人 市民社会創造ファンド 理事長
公益財団法人 助成財団センター 理事長
認定特定非営利活動法人 日本NPOセンター 顧問
山岡 義典 氏

写真:山岡 義典 氏

企業がNPO/NGOに助成を始めた背景

1970~90年代にかけて助成財団が増え続け、90年代にフィランソロピーという考えが注目される中、新しい法人格の仕組みとして1998年にNPO 法が施行されました。ところが、助成財団の設立は90年をピークに急減に向かい、その後も低迷。
パナソニックがプログラムを始めた2001年は助成財団の冬の時代でした。

組織基盤強化を目指したパナソニックの歩み

このプログラムは組織基盤強化を真正面に掲げたもので、当時は本当にできるのだろうかと思っていました。企業市民活動の担当者の情熱が第1ステージ(2001~2006年)の「サポーターズ☆マッチング基金」を創り上げ、第2ステージ(2006~2011年)から、計3000万円を助成する最長3年継続の「Panasonic NPOサポート ファンド」が始まって、各地で組織基盤強化ワークショップを開催しました。市民社会創造ファンドはこの頃から関わりをもっています。
第3ステージ(2011~2018年)から第三者の組織診断を導入し、アフリカ分野への助成プログラム、事業評価、プロボノ、支援力「応援」プログラムがスタート。組織診断には日本各地のコンサルタントが協力してくださり、ここで育っていきました。この複合的な展開が組織基盤強化への理解に大きく貢献しました。これらを受けて、第4ステージ(2018年~)の「Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGs」が「貧困の解消」を目指して国内・海外助成の両輪で回り始めました。応募された皆さんや助成を受けられた皆さんとの対話が、ここまでこのプログラムを育ててくれたと言っていいでしょう。

組織基盤強化とは何か

組織基盤は積み荷(=個々のプロジェクト)を運ぶ船のようなものと言ってきました。同時にNPO/NGOは受益者と支援者からの信頼と、広く市民からの信頼を得ることで支援性の財源が増え、対価性の財源につながっていく。その信頼を支える木の幹を組織基盤に例えることもできます。
1960~70年代は市民運動、1980~90年代は市民活動の時代でした。その中でNPO法ができ、2000年代から市民事業が盛んになりました。さらに2008年からの公益法人制度改革の施行で、一般法人や公益法人が生まれ、さらに社会福祉法人なども変わってきました。2020年代はそれぞれにふさわしい組織基盤強化を考え、新しい形の運動性を回復することが課題になると思います。

社会変革を生み出せる組織に変わる、組織基盤の3つの心得

  1. 社会的課題の解決の先、あるいは、その基にある社会的価値の創造を考えてほしい
  2. 急ぎ過ぎる成果への期待は未来への夢、つまり社会的価値を創造する力を蝕む
  3. 新しい動きに惑わされず、冷静な思索と対話、創造的な批判を忘れないように

この考えを忘れず、いつの間にかNPO/NGOが「痩せ細った便利屋」にならないように用心しましょう。

●20周年節目評価報告

サポートファンドの第3ステージから見えた
NPOの組織基盤強化の実際

公益財団法人 パブリックリソース財団 事務局長 田口 由紀絵 氏

評価の概要

写真:田口 由紀絵 氏

サポートファンドでは、2010年に第1・2ステージの評価を行い、その後、毎年フォローアップ調査を実施してきました。今回の20周年節目評価では、第3ステージの団体へのアンケートやヒアリング、応募書類や報告書類等の分析、選考委員やコンサルタントへのヒアリングなどを行い、これまでのデータも活用して評価を行いました。

子ども・環境分野における成果

子ども・環境分野のプログラムの目標は、団体の組織基盤が強化されることによって、最終的には市民活動の持続発展、社会課題の解決促進、社会の変革を実現するという点にあります。社会課題の解決促進や社会の変革に貢献する団体を選び、組織診断や第三者の伴走支援の資金を提供しただけでなく、事務局サポートや贈呈式、報告会などの複合的な支援を行うことで、社会的成果を実現しようとしていました。

このプログラムの評価を行うにあたり、まず、短期的な成果(アウトカム)として、組織基盤が強化されたかについて見ていきたいと思います。診断シートを組織基盤の指標群として活用し、助成前と助成後で比較したところ、マネジメント能力、人材、財務管理などのすべての領域を総合して、点数が全体で53.2ポイントから65.6ポイントに上昇していました。具体的な内容をみると、助成先団体のエンパワメントかながわは「講師の集まりだった組織が社会を変えるNPOになった」、河北潟湖沼研究所は「終了後2年くらいの間に理事会、スタッフ、事業がじわじわ変わった」とコメントしています。

次に中期的な成果(アウトカム)として、社会的成果に着目すると、87.2%の団体で受益者が拡大したという変化がありました。具体的には、例えば助成先団体のホールアース研究所は地域の社会課題解決に主眼を置いた新事業を行うようになるなど、取り組む課題の範囲を拡大させています。

アフリカ分野における成果

広報基盤の強化に助成するアフリカ分野では、17団体にアンケートを実施したところ、成果として動画やホームページ、冊子等、さまざまな広報ツールが作成されたことがわかりました。それらを活用することで、「ウェブサイトのアクセス数が増えた」「問い合わせが増えた」「寄付が増えた」などの効果が現れていました。助成先団体のテラ・ルネッサンスは「広報担当職員のスキルアップやウェブサイトの改善で、寄付キャンペーンが成功。賛助会員が679人から1,700人以上に増えた」と言っています。

選考委員や有識者はアフリカ分野について特に次の3点を評価しています。

  1. 光が当たりにくかった草の根のアフリカ団体が励まされた
  2. 団体同士が連携の幅を広げた
  3. 企業と市民セクターが対話を重ねてつくったことに価値がある

サポートファンドにおける組織基盤強化とは

サポートファンドの組織基盤強化は、有給スタッフを置き始め、組織として次の発展段階に進もうとしている団体を主な対象としてきました。今回の調査では、どのような団体が組織基盤強化に取り組んだのか、その団体像を4つに類型化することも試みています(次の対談で紹介)。

サポートファンドが果たした役割を3点にまとめると、

  1. 組織基盤強化の必要性をNPOに伝えた
  2. 第三者の関わりや組織経営の重要性がNPOに認知された
  3. NPOを、社会を変えるために活動する団体に変えた

ということが言えるかと思います。

●山岡氏と田口氏による対談

二段構えのアウトカムで社会を変え、NPOコンサルタントを育てたプログラム

対談の様子:山岡 義典 氏
山岡氏と田口氏による対談の様子
対談の様子:田口 由紀絵 氏

山岡氏 組織基盤強化の評価をどのようにされるのか、興味深く聞いていました。組織が強くなるというアウトカムがさらに社会を変えていくというアウトカムを生む、そんな二段構えなんですね。このような場合、評価は助成後、どの時点で行うのがいいのでしょうかね?

田口氏 社会的変化が現れることを考えると、2年以上のスパンが必要と思いますが、どの時点がいいかは団体によると感じました。1年半後では社会的影響が拾いにくいので、ヒアリングは3年以上の団体を選びました。かといって10年後だと、プログラムの成果かどうかわからなくなってしまいます。

山岡氏 組織基盤強化に取り組んだ団体の4つの類型化も試みていましたね。子ども分野や環境分野に限らず、すべてのNPO/NGOに通じる普遍的なモデルになっていたように思いましたが、どのように検討されたのでしょうか?

田口氏 応募用紙や報告書、フォローアップのアンケートなどから分析しました。環境分野に多いのは「転換期型」。リーダーが引っ張ってきたけれど、そろそろ世代交代しないといけないとか、立ち上げ当時のメンバーと現場のメンバーの方向性が変わってきて、リーダーシップに変化が生じたケースです。子ども分野に多かったのが「イシュー先行型」。子どもの貧困がこの20年で顕在化し、NPOが真っ先に動き出しました。立ち上げて委託金や寄付で運営し、活動も大きくなったけれど、マネジメントが追いつかず、応募したケースです。

山岡氏 貧困問題は、この20~30年の新自由主義の中で格差が広がり、欧米でも日本でも深刻化してきました。統計だけを見ると、国際的には絶対的貧困、日本では相対的貧困が問題だと言われてきましたが、日本ではさらに関係性の貧困という問題も言われています。統計的な数字だけでは片づけられません。表面的な解決だけを強めても本当の貧困の解消にはつながりません。どういう公的政策や産業振興で乗り切っていくのか、新しい哲学が必要になってくると思います。

田口氏 サポートファンドのもう一つの成果として、第三者による組織診断を始めてから、伴走支援できるNPOコンサルタントが増えた気がします。一方で、組織基盤強化やマネジメントができているNPO/NGOには、企業のように専門的なコンサルタントが必要です。

山岡氏 コンサルタント同士の経験や言葉を共有する場も必要になってくるかもしれませんね。いろいろな課題が見えてきたのもパナソニックの20年の大きな成果だと思います。この4日間で何が見えてくるのか楽しみにしています。