2021年7月12日から15日の4日間、オンラインにて「Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGs 20周年記念 シンポジウム・ウィーク」を開催しました。
3日目の14日はプロボノプログラムの取り組みを紹介し、280人の参加申し込みをいただきました。この日はモデレーターに、ジャーナリストやキャスターとしてご活躍の堀潤氏を迎え、プロボノプログラムで支援した3団体と、その3団体へのプロジェクトに参加したパナソニックの社員による事例発表やパネルディスカッションを行いました。併せて、協働事務局のサービスグラントより「10周年アンケートの結果」を報告し、プロボノの価値を多面的に探りました。

●開会の挨拶

助成団体の事業運営をサポートする
“新しい形のボランティアプログラム”として誕生

パナソニックは2001年にサポートファンドを立ち上げ、助成先団体の事業運営をパナソニックの社員がビジネススキルを活かしてサポートするボランティアプログラムとして、2011年にプロボノプログラムを設立しました。103年前に創業したパナソニックは、事業活動と企業市民活動を車の両輪のように進めてきました。その中で、SDGsの1番目の目標でもある「貧困の解消」を軸に活動しています。
さらに新型コロナに関連して、休校中の子どもたちの学び支援や不足している物資の支援、ワクチン・治療薬の研究開発支援、従業員による募金キャンペーンなども行ってきました。今日は企業の社会貢献担当の方や当社グループの社員も、たくさん参加しています。皆さんとご一緒に、社会課題の解決に尽力していければと思っています。

パナソニック CSR・社会文化部
部長 福田 里香

●プロボノプログラム10年の歩み

社会課題の解決促進と社員のイノベーションマインド向上が狙い

プロボノプログラムは、社員のビジネススキルや経験を社会に役立て、NPO/NGOの事業展開力強化を応援することで社会課題の解決を促進し、さらに社員のイノベーションマインドを向上させることを目的としています。このプログラムの企業人から見た魅力は、「チームを組んで応援できること」「費やす時間が読め、期間が決まっていること」「オンラインでも取り組みやすいこと」「達成感を味わえること」等が挙げられます。これまでに300人近い社員が54団体のマーケティング調査や中長期計画の策定、ウェブサイトのリニューアル、業務フローの改善提案などを応援しました。プロジェクトは6カ月が基本ですが、短期プロジェクトもあります。東日本大震災後は災害・復興支援に取り組む団体も対象とし、2014年には福島の5団体に東京から1泊2日で応援に行きました。

当社のプロボノ参加者の属性を見ますと、社会人経験20年以上が半数以上を占め、多種多様な職種の社員が参加しています。設立からの5年間は「プロボノフォーラム」でプロボノの意義や価値を発信し、2017年には「東京都共助社会づくりを進めるための社会貢献大賞」特別賞を受賞しました。

●事例報告①

活動の意義を振り返り、自己肯定感も上昇

認定特定非営利活動法人 気候ネットワーク
理事・事務局長 田浦 健朗 氏・主任研究員 伊与田 昌慶 氏
パナソニック
岡崎 嘉幸 氏・松嶋 潤子 氏

●背景:気候ネットワーク
市民の立場から、地球温暖化防止に取り組むNPOです。
活動をどのように見せ、理解者(会員)をどう増やしていくか考えたくて、2012年にプロボノをお願いしました。

●内容:プロボノチーム
プロボノへの参加は全員初めて、職種もばらばらという6人のチームで事業計画立案に取り組みました。

団体の社会への影響力を増幅させるために、内外関係者にヒアリングし、強みと弱みを分析。中間報告で、PDCAを回しながら方向性を決めていくべきだと提案したら、すぐに2日にわたる中長期戦略会議を開いて何をすべきかを全員で話し合ってくれました。最終提案の日には、会員数を増やすために必要なステップや労力を数値化して可視化し、共有することができました。

●成果:気候ネットワーク
日々の活動に追われる中で振り返る機会を与えてもらい、スタッフのスキルを棚卸しできたことで、さまざまな情報発信ができるようになりました。私たちに、多様な一般市民目線で、活動にどんな意義があるのか教えてくれたおかげで、自己肯定感も上がりました。

●事例報告②

「理想のハウス」のビジュアル化で広がる支援の輪

認定特定非営利活動法人 ファミリーハウス
理事・事務局長 植田 洋子 氏・理事 小山 健太 氏
パナソニック
橋本 裕美 氏・丹田浩司 氏

●背景:ファミリーハウス
高度医療を受けるために入院・通院する子どもと家族に、30年にわたって「病院近くのわが家」を提供しています。医療技術の進歩で一時退院するお子さんが増え、2013年、プロボノの皆さんに「理想のハウス」のビジュアル化をお願いしました。

●内容:プロボノチーム
デザイナーを含む9人のチームで、事業計画立案に取り組みました。4つのハウスを見学し、ボランティアやハウスオーナー、医療従事者など20人以上にヒアリング。

中学生同士が寝転んで病気や人生について語り合うこともあると聞き、他の家族とコミュニケーションを取れる共用スペースなど、各部屋の仕様やイメージ図を提案しました。プロボノメンバーの一人は東京マラソンでもチャリティ―ランナーとして走り、寄付を呼びかけました。

●成果:ファミリーハウス
ビジュアル化された資料が起爆剤になって、支援の輪が広がっています。都知事に視察に来ていただくこともできました。国立がん研究センター中央病院に近い築地市場跡地に「理想のハウス」を開設することを目指して、これからも資料を活用していきます。

●事例報告③

災害NPOへの理解を深める資料で行政との連携を推進

認定特定非営利活動法人
全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)
理事・事務局長 明城 徹也 氏・広報部 ファンドレイズ担当 神元 幸津江 氏
パナソニック
大嶋 真奈美 氏・西谷 雄 氏

●背景:JVOAD
災害時に被災者に支援が行き届くよう、平時から行政・企業・団体・専門家と災害支援のネットワークを構築しています。蓄積した災害支援の連携事例を整理する時間がなく、プロボノの皆さんに、2019年は住宅再建のノウハウの可視化、2020年は行政の担当者に災害NPOの役割を説明する営業資料の作成をお願いしました。

●内容:プロボノチーム
2019年は6人のチームでNPOへのヒアリングを重ね、住宅再建のノウハウを可視化。行政の制度やNPOの支援活動、コーディネーターの役割についてまとめ、災害コーディネーターの研修にも使える資料にしました。2020年は7人のチームで毎週土曜の夜にリモート会議を重ね、市町村の担当者が災害NPOへの理解を深めるための資料をつくりました。NPOと行政の担当者にヒアリングし、日本語を話せない住民への対応や壊れた家屋の補修など、NPOとの連携が役に立った事例を紹介しました。

●成果:JVOAD
2019年の資料はホームページ上でも公開し、行政や支援団体への研修でも使用しています。2020年の資料は今年7月に土砂災害で被災した熱海市でもさっそく活用し、災害NPOについて理解を得ることができました。

●パネルディスカッション

プロボノの可能性~支援先団体・プロボノメンバーそれぞれの視点から~

モデレーター
8bitNews 代表理事/GARDEN CEO/
わたしをことばにする研究所 副所長
堀 潤 氏

●NPOの視点から
堀氏 私自身もNPOを運営する一方で、NPO/NGOの情報発信を支援する会社を運営しています。視聴している皆さんからの質問にも答えていただきながら、これからのプロボノの形を探っていきましょう。

――プロボノを受け入れての感想は?
気候ネットワーク 伊与田氏 始まるまでは不安でしたが、プロボノの皆さんの私たちを理解し応援しようとする前向きな気持ちに励まされました。

写真
パネルディスカッションの様子

サービスグラントさんもNPOとプロボノチーム両方の視点に立って、素晴らしいコーディネートをしてくれました。

――「理想のハウス」を外部のプロボノに委託することへの抵抗は?
ファミリーハウス 小山氏 「理想のハウス」は行政や企業や個人など、社会の継続的な支援を受けないと成り立たないものです。その社会の代表として、パナソニックの皆さんに参加してもらうことに意味があり、だからこそ伝わるプレゼン資料ができたのだと思います。

――いろいろな職種の方が関わることの魅力は?
JVOAD 神元氏 私たちがつくると情報を盛り込みすぎて、伝えたいための資料になってしまいますが、マーケティングやデザインなど、さまざまな職種の方が特技を活かして関わることで、伝えたいことが伝わる資料ができました。

●プロボノメンバーの視点から
――プロボノに参加して得たものは?
岡崎氏 会社にいると自分の世界しか見えないけど、同じ社内でも顔を知らない人たちと出会い、気候ネットワークという自分とは違う世界で重要な活動をしている人たちを支えることができた。人とのつながりという、ありがたい財産を得ました。

――高度な依頼をされた場合の対応は?
西谷氏 JVOADさんとコミュニケーションを重ねて、「時間内にここまではやります」と決めました。

パネルディスカッションの様子

求められていることに応えられているのか不安に思うこともありましたが、仲間や団体と詰めていくことで、この方向でいいんだと自信をもって進められました。

――プロボノへの参加を迷っている人に伝えたいことは?
橋本氏 ファミリーハウスの皆さんが利用者の方やボランティアの方などに愛情深く関わっているのと同じような気持ちで参加して、よそ者なのに仲間になれたのはうれしかった。右も左もわからず、出張の多い私でも、一つのチームとして最後までたどり着けたので、皆さんも躊躇せずにご参加ください。

●10周年アンケート結果の報告と総括

団体の組織基盤を強化し、社員や会社にも成果

2011年に始まったプロボノプログラムにはのべ54団体、296人が参加しました。その中から、長期の38プロジェクトに参加した団体とプロボノの皆さんにアンケートを実施しました。その結果、92%の団体が「プロボノが団体の組織基盤強化につながった」、96%の団体が「団体によい変化があった」と回答しました。
具体的には、発信力が高まったことや組織規模の拡大、資金調達力アップ、ステークホルダーの広がりなどを実感した団体が多く、「団体への評価を知ることが自信につながった」「プロボノの皆さんの進め方を見て日常業務に活かしている」といった意見もありました。

さらに、プロボノに参加した社員の方々にも「社会課題への感度を高める」「自己効力感や自信を高め、物事に対する主体性を伸ばす」「社内のコミュニティ活性化につながる」「自分のスキルの棚卸しや新たな発見ができる」「自社への愛着・ロイヤリティが高まる」といった成果が出ていることがわかりました。

集合写真