2021年7月12日から15日の4日間、オンラインにて「Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGs 20周年記念 シンポジウム・ウィーク」を開催しました。4日目の15日はアフリカ分野の取り組みを紹介し、146人の参加申し込みをいただきました。この日は、モデレーターに2016年から選考委員を務めた松尾 沢子 氏を迎え、助成先2団体の事例報告やパネルトーク、アフリカ分野選考委員長の稲場 雅紀 氏の総括コメントを通して、アフリカ分野の団体への広報基盤強化にどのような意味があったかを探りました。
●開会の挨拶
「貧困の解消」を目指し、無電化地域にあかりを届ける
パナソニックは2001年にサポートファンドを設立し、2010年にアフリカ分野を立ち上げました。103年前に創業したパナソニックは、事業活動と企業市民活動を車の両輪のように進めてきました。現在、企業市民活動では「貧困の解消」を軸に活動し、「ソーラーランタン10万台プロジェクト」に続く「LIGHT UP THE FUTURE」の取り組みで無電化地域にあかりを届け続けています。例えばアフリカのケニアでは、ソーラーポンプで野菜を栽培することができ、給食に活用したり、収入源にもなっています。これからも皆さんとのパートナーシップのもと、社会課題の解決に向けて取り組んでいきたいと思います。
●アフリカ分野10年の振り返り
国際的な活動の広がりとつながりを生んだ10年
日本にとってアフリカは遠く、NGOも十分に情報発信できていなかった2010年、「アフリカに関わらずしてグローバル企業とは言えない」というパナソニック担当者の思いから、アフリカ分野の助成プログラムが生まれ、23団体の広報・発信・啓発活動を支援してきました。
動画など、発信力の強い広報ツールの整備によって広報を担う人材も育成され、資金調達を海外まで広げた団体もあります。アフリカ開発会議(TICAD)でも助成団体がパネル展示を行い、影響力を発揮しています。このプログラムが企業と市民セクターの対話を通じて形成され、一般の方に活動を報告し、助成団体同士が学び合う、つながりを生んだことは意義深いことです。2018年に改定された「for SDGs」の海外助成プログラムにも、アフリカに関わる団体から多くの応募があり、持続的な展開を期待しています。
●事例報告①
活動を全国に広める「スピーカー」の仕組みを確立
1981年にイギリスで設立したウォーターエイドの日本法人として、2013年から、すべての人が水と衛生にアクセスできる世界を目指して活動しています。丸一日の講習を受けると、アクティブラーニング型教材を使って、地域や学校でウォーターエイドや世界の水・衛生問題の授業ができる認定制度「スピーカーズクラブ」を2014年に導入。その輪を広げるために助成を受けました。2016年には5都市でスピーカー講習会を開催し、49人がスピーカーに。2017年にはスピーカーをまとめ、イベントや講習会の企画運営を主体的に担うコアスピーカーを育成し、マニュアルをつくりました。2018年はコアスピーカー中心のスピーカー講習会を開催し、授業の動画を作成しました。現在は252人がスピーカーとして講習会やイベント、出前授業のサポートを行ってくれているおかげで、職員3人で対応できています。講習会や出前授業のオンライン化も進めていて、日本全国にさらにスピーカーが広がっていくことを期待しています。
●事例報告②
英語の広報を充実させ、欧米の支援者が増加
2015年に設立し、ダイヤモンドが人道・環境に配慮した上で取引されるよう、日本とリベリアで活動しています。
より関心の高い欧米の支援者を増やすために助成を受けました。2018年は未認知層を潜在的支援者にするために、英語のウェブサイトを刷新。イギリスの行動変容専門家の助言で、ターゲットのペルソナを設定し、テストを繰り返しながら改善する重要性を学びました。2019年はアクティブな支援者を増やすために英語のパンフレットを刷新し、エシカルジュエリーのカンファレンスに登壇しました。2020年はコアな支援者を増やすために、キャンペーンや4回シリーズのウェビナーを実施し、英語のメルマガを開始。助成後も取り組みを継続できるよう、広報の評価手法を設計しました。その結果、助成前はほぼゼロだった欧米からの問い合わせやアクティブな支援者、コアな支援者が増え、団体内に、制作物を最後まで妥協せずにつくる文化も醸成されました。制作物は日本語にも訳し、国内でも活用しています。
●パネルトーク
助成を通じて得たもの、今伝えたいアフリカ
モデレーター
国際協力NGOセンター(JANIC) 松尾 沢子 氏
登壇者
ウォーターエイドジャパン 高橋 郁 氏
ダイヤモンド・フォー・ピース 村上 千恵 氏
アフリカ日本協議会 理事・国際保健部門ディレクター 稲場 雅紀 氏
――助成を受けたことで得たものは?
高橋氏 私たちのビジョンは、2030年までにすべての人が清潔な水とトイレを使って、衛生行動を実施できること。ビジョン達成に必要なスピーカーは、助成前の19人から252人に増えました。日本に、水・衛生支援が大切であると考え、行動を起こしてくれた方々が252人もいる、というのは、団体にとって大きな財産です。イギリス政府が、新型コロナ対応の資金が必要なので、途上国の水・衛生援助を削減するという話が出た時、イギリスのウォーターエイドの支援者の皆さんがツイッターで声をあげてくれました。日本政府は、水・衛生分野の最大の援助国ですが、万一、その水・衛生援助を打ち切るなんてことになったとしても、スピーカーの皆さんと一緒に声をあげていける、と考えると心強いです。
――今、日本で伝えたいアフリカの状況は?
村上氏 アフリカには54カ国あって、多くの民族や言葉や慣習、課題が存在します。丁寧にコミュニケーションを図り、現地の方が描く未来を一緒に実現する多様な支援の方法が求められています。昨年あたりから、サプライチェーン上のリスクマネジメントが経済開発協力機構(OECD)やEUでは潮流となり、その流れがやっと日本へも来つつあります。一つの製品のサプライチェーン全体で人権侵害のリスクがないか管理できない企業は、投資家からも見向きもされなくなると思います。
●総括コメント
次の10年への提案
2010年のアフリカ分野設立以来、選考に携わり、2016年からは選考委員長を務めてきました。開始当初はMDGsの時代で、途上国の貧困半減が課題でした。その後のリーマンショック以降、世界のお金の流れが新興国・途上国に大きくシフトし、アフリカ諸国もその影響を受けました。アフリカの多くの国の首都に高層ビルが建設され、情報通信革命も本格化しました。それがちょうど一服迎えたころに、新型コロナの危機が生じ、気候危機も本格化したのです。
SDGsの時代になって、アフリカは他の地域同様、経済・社会・政治・環境の多様な課題で難しいかじ取りを迫られています。また、NPO/NGOに加えて、企業や民間財団なども、社会課題への取り組みに大きく乗り出してきており、世界中からさまざまなアクターが登場しています。
新型コロナに関しても、世界のルールづくりをリードしているのは、テドロスWHO事務局長、オコンジョ=イウェアラWTO事務局長などアフリカ出身者です。「アフリカは日本が社会貢献するための場」といった固定観念を捨て、多角的な関わりをしていくことが必要だと思います。