Universal Design ユニバーサルデザインを通じて、より多くの人が生き生きと暮らせる生活の実現を目指すパナソニック。 「いきいきライフデザインマガジン」では、様々な専門家から人生をさらに豊かにするヒントをお届けしてまいります。

いきいきライフデザインマガジン

第5回:電池の取り替えから家電以外のお困りごとまで地域の暮らしをまるごとサポート 第5回:電池の取り替えから家電以外のお困りごとまで地域の暮らしをまるごとサポート

多摩大学大学院教授、医療・介護ソリューション研究所所長

真野俊樹 先生

高齢者が充実した暮らしを送るために、地域ではどんなサービスが求められているのでしょうか。
医師でありながらMBA〈経営学修士〉保持者でもあるという異色の経歴を持ち、医療・介護・健康分野のマーケティングに詳しい真野俊樹先生(多摩大学大学院教授、医療・介護ソリューション研究所所長)が、親身なサポートで評判のパナショップ「パナリブVIVIDトーシン」を訪ね、浅川義男社長にインタビューしました。

電話一本でリモコンの電池交換に伺います

真野先生:

こちらのお店はいつごろからご商売をされているのですか。

浅川社長:

もう40年以上になります。お客様も50~60年ずっとここに住んでいるという方が多いです。

真野先生:

ある調査によると、日常生活でひとり暮らしの高齢者が一番困るのは電球交換や家の中の修理だそうです。こちらでも電球を交換してほしいというお客様はおられますか。

浅川社長:

電球交換はもちろん、リモコンの電池交換もしょっちゅう頼まれます。まずフタが開けられない。電池の入っている箇所がわからない。それ以前に電池がなくなっていることに気づかない。気づいても、「電池交換したのに動かない」。行って見ると、電池が逆さまに入っていたりします(笑)。

真野先生:

では、電話1本で電球やリモコンの電池の交換に伺うのですか。

浅川社長:

それだけお客様に頼られていますから。もし「TVが欲しい」という方と「電球が切れて困っている」方がいたとしたら、TVは待ってもらってでも、まず電球の取り替えに伺います。電気がつかない方が困りますよね。我々のような専門店はネットや量販店に比べると価格が高いので、ただ商品を届けるだけでは誰も買ってくれないと思うのです。プラスαの魅力がないと。当店のお客様は「トーシンさんならいろいろやってくれるから」と納得して買ってくださるわけです。

真野先生:

なるほど、お客様はアフターサービス込みで商品をお求めになると。

浅川社長:

商品をお届けして、セッティングをするのは当然ですが、ハードディスクレコーダーなどは一度説明をしただけではなかなかわかりませんから、操作を覚えていただくまで何度でも通います。

真野先生:

ご高齢の方は取扱説明書を見てもわかりにくいでしょうからね。

浅川社長:

以前、80歳を過ぎたおばあちゃんが「韓流ドラマを録画したいのだけど、私でもできるかしら?」とおっしゃるので、「ビデオよりかえって簡単ですよ」とハードディスクレコーダーを設置しました。数日後、「録画した番組の見方がわからない」というので、伺ってご説明したら、すっかり覚えて使えるようになりました。しばらくすると、今度は「録画したドラマをお友達にも見せてあげたい」とおっしゃるので、また何回か通ってご説明したら、ハードディスクレコーダーからDVDディスクにダビングしてファイナライズをかけるところまで、完全にマスターされましたね。

真野先生:

それはすばらしいですね。

こまやかなサービスで信頼を築く

浅川社長:

当店の正月休み中、たまたまお客様のファンヒーターが壊れて、近くの店で新しいのを購入されたそうです。ところが、スイッチを入れてもつかない。エラー表示が出ている。不良品だったんです。それで、買った店に電話したら、「店まで持ってきてください。お取り替えします」と言われたと。ごく普通の対応ですが、お客様は「初めて他の店で買ったけど、アタマに来た。トーシンさんだったらすぐに交換に来てくれるのに。もう腹が立つから、交換しになんか行かねえ。トーシンさん、新しいのを持ってきてよ」。「いや、もったいないですよ」と言っても、「いや、こんなもん要らねえ」と(笑)。

真野先生:

トーシンさんの丁寧なフォローが当たり前だと思っておられたから、ショックを受けたのですね。

浅川社長:

もともと当店は修理が売りだったのです。どこで買ったものでも、他のメーカーのでも、どんなものでも治しますよと。ミシンの修理を頼まれて業者さんに仲介したこともありました。他のメーカーのエアコンを修理したのがご縁でお得意様になってくださった方もいます。

真野先生:

一度信頼関係ができると、お得意様になってくださる。

浅川社長:

若い方からもパソコンやスマホについてのお問い合わせがけっこうあります。私はわからないので、息子や若い従業員に対応してもらっています。そうすると、お客様はちゃんと覚えていてくださって、家電を買う時にうちで購入してくださるんです。ありがたいですね。

家電以外のお困りごとにもすぐに対応

浅川社長:

家電以外のご相談もけっこうありますよ。この間は、雨の日に「天井から水が漏ってくるから何とかしてくれない?」と電話がかかってきました。普通、電気屋にそんな電話はかけませんよね(笑)。早速息子を見に行かせたら、天井にヒビが入っているというので、とりあえず見えるところをコーキングして、「築20年だし、そろそろ防水をした方がいいんじゃないですか?」と言ったら、「だったら、トーシンさんやってよ」と。ご高齢の方は知らない業者さんを呼ぶのがイヤなんですね。知らない業者さんだと、何か不具合があった場合にすぐに対処してもらえるかどうかわからない。その点、当店が間に入っていれば、うちの方から強く言える。だから、何でも「トーシンさんに頼んでおけば安心」と、お困りごとは何でもやらされますね(笑)。

真野先生:

それだけの信頼関係があるわけですね。そんなふうに何でも頼まれるお客様はどのくらいいらっしゃるのですか。

浅川社長:

登録されているお客様は1,600~1,700名ですが、なんでもおまかせのお客様はそのうちの1/3くらいです。

真野先生:

エリアはどのくらいですか。

浅川社長:

だいたい500メートル圏内なのですが、ご紹介が多いです。なかにはここから千葉や埼玉に引っ越されたお客様もいらっしゃいます。「新居の家電を全部トーシンさんで買いたい」とおっしゃるので、「本当にありがたいんですが、今までのようにアフターサービスできる自信がないから、お近くのパナショップをご紹介します」と断りました。そしたら、「あんた、うちを見捨てるの?」と(笑)。結局、その後も30年以上お付き合いしています。

地域の身近なところで頼れる拠点を見つけよう

真野先生:

今、国では、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体となって提供する「地域包括ケアシステム」の構築をめざしています。そのなかで一番大事なのは生活支援の部分で、誰がそれを担うかが問題になっています。トーシンさんはまさにその役割を担っておられますよね。お客様から健康に関するご相談などもありますか?

浅川社長:

どこの病院がいいかという相談はよくあります。いつもお客様からあれこれ聞いているので、そこで聞いた評判などをお伝えしています。

真野先生:

病院に関するクチコミを集約されているんですね。あとは70代以上のお客様の虚弱化・介護予防にもぜひ一役買っていただければ理想的です。

浅川社長:

ご年輩のお客様は、この間まで元気だったのに急に具合が悪くなることがありますよね。うちでは、バースデーにささやかなプレゼントを手渡しに行ったり、年に数回開く催し物の招待状をお持ちしたりと、定期的に伺うようにしています。

真野先生:

どんなイベントを開催されるのですか?

浅川社長:

春は函館からイカを取り寄せて外で丸焼きにしました。夏は朝もぎのとうもろこしを700本焼きます。冬は餅つきです。ご近所のお客様に手伝いを頼むと、「じゃあ私は小豆を煮て持ってくるわ」と喜んで来てくださるんですよ。お子さんたちもたくさん集まってくれて、毎回楽しくやっています。

真野先生:

まさに介護予防を兼ねたキーステーションの役割を果たしておられますね。今日は本当にいいお話をお聞きすることができました。ありがとうございました。
これから高齢化が急激に進むなかで、まちの中に生活支援をしていく拠点がますます必要になります。ただ税金ではそこまでまかなえません。かといってボランティアやNPOでは継続性の点で難しいので、なんらかのビジネスとしても成立する形で、地域の人たちの暮らしを支えていけるのが望ましいと思うのです。トーシンさんの事例は、その理想的なモデルのひとつだと思います。

今、介護予防の担い手としてドラッグストアがクローズアップされています。コンビニでも市販薬を販売したり、宅配サービスの拡充、ヘルシーな総菜を増やすなど、高齢者向けにシフトしています。高齢者が増えて日常の暮らしに不便なことが増えてくるから、それらをカバーするサービスが増えているのです。このような流れはこれからますます大きくなっていくと思います。電話一本で電球を取り替えてくれる“まちの電気屋さん”のように、地域の高齢者のちょっとした困りごとを支援する新しいビジネスが、さまざまな業種から登場するのではないでしょうか。生活者にとっては、元気なうちから“地域の身近なところで頼れる存在”を見つけておくことが、住み慣れた地域で安心して暮らしていくための最高の基盤となるのではないかと思います。

真野俊樹(まのとしき)先生プロフィール

1987年名古屋大学医学部卒業。
医師、医学博士、経済学博士、日本内科学会専門医、MBA、臨床医を経て、95年9月コーネル大学医学部研究員。外資系および国内の製薬企業のマネジメントに携わる。
その後、昭和大学医学部(病院管理学担当)専任講師、大和総研主任研究員、大和証券SMBCシニアアナリスト、多摩大学医療リスクマネジメント研究所教授を経て、現在、多摩大学大学院教授兼医療・介護ソリューション研究所所長、JA共済総研研究所客員研究員、医療機器センター客員研究員などを兼務し、中央大学ビジネススクールでも教鞭をとる。専門領域:医療・介護・ヘルスケアマーケティング

主な著書:「こんな医者ならかかりたい 最高のかかりつけ医の見つけ方」(朝日新書)
「健康マーケティング」(日本評論社)ほか

編集後記 編集後記

中尾洋子 パナソニック(株) デザイン戦略室 課長 / 全社UD担当

私は浅川社長に商品開発でもヒアリングさせて頂いたことがあるのですが、いつもお客様への想いがあふれておられて感銘を受けます。お客様を定期的に訪問され、お困り事をサポートされると同時に、体調も確認されておられるとのことで、本当に心強いですよね。また、高齢の方だけでなく若い方にも信頼されていて、地域のキーステーションとしての好例だと思います。皆さんも、是非身近で探してみて下さい。