ユニバーサルデザインを通じて、より多くの人が生き生きと暮らせる生活の実現を目指すパナソニック。「いきいきライフデザインマガジン」では、様々な専門家の知見から人生をさらに豊かにするヒントをお届けしてまいります。

熊本県を中心とした九州での地震の被害に遭われた方々に、心よりお見舞い申し上げます。少しでも被災地の方や支援される方のお役に立てないかと、今回の臨時増刊号を企画しました。被災地の方のこれからの暮らしの、一助になれば幸いです。

いきいきライフデザインマガジン

臨時増刊号:災害時の「生活不活発病」対策~支援する人すべてで「予防」を!

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
ロボットイノベーション研究センター 招聘研究員

大川弥生 先生

「いきいきライフデザインマガジン 第1回」では、高齢者に多い「生活不活発病」と、日常生活でできる予防・改善のポイントをお伝えしました。
この病名の提唱者である、大川弥生先生によれば、災害時は生活不活発病が特に高齢者に生じやすいとのことです。ですから、生活不活発病を「予防」することを、熊本地震が発生して間もない今からでも、気を付けなくてはならないとのことです。熊本地震による避難生活でも、生活不活発病が注目されている今、「いきいきライフデザインマガジン 臨時増刊号」として、みんなでできる生活不活発病の予防のポイントを、大川先生に伺いました。

災害時の生活“不”活発化に注意を 災害時の生活“不”活発化に注意を

災害の後は生活を“不”活発にする様々なことが起こります。それは、避難所で生活をされている方、車中泊を余儀なくされている方だけではありません。またこれから仮設住宅で生活を送られる方だけでもありません。被災地に住む、すべての方々に起こることであり、気を付けていただきたいことです。特に高齢者は、生活不活発病になりやすく、「悪循環」となりやすいので、一見元気な方でも注意が必要です。

そして、生活不活発病の予防・改善のポイントは、生活を“不”活発にさせないことです。もし不活発になっていれば、その原因を取り除き、「活発な生活」を送ることです。このためには、医療・保健などの専門家だけが対策を考えるのではなく、ご本人やご家族、そして地域の方々やボランティア、支援者の方々も一緒に、工夫やサポートをすることが大切です。

災害時は生活不活発病が同時多発 災害時は生活不活発病が同時多発

私は2004年に発生した新潟県中越地震で、災害時に生活機能の低下が同時多発することを初めて確認しました。以降、富山県南砺市での豪雪(2006年)、能登半島地震(2007年)、富山県入善町での高波(2008年)等の災害時にも、生活機能の実態把握や具体的な支援をおこなってきました。そしてそれらのデータを示して、その予防・改善対策の必要性を訴えてきました。厚生労働省からも注意喚起を促す通知が出され、様々な反響もあったのですが、そのような認識が十分に浸透しないうちに東日本大震災が起き、大規模・広範囲な生活機能低下の発生を許してしまったのはとても残念なことでした。

東日本大震災の被災地でおこなった調査では、発災から1ヵ月後に仙台市の避難所で、そして2ヵ月後に宮城県南三陸町で、歩くことや身の回りの動作の不自由さが震災後に現れ、改善していないことが分かりました。そして、その最も多い原因が生活不活発病であることを確認しました。生活不活発病はこのように、早期から現れるのです。

そしてその7か月後、南三陸町の全町民を対象に、ICF(国際生活機能分類、「いきいきライフデザインマガジン 第1回」参照)に基づく調査をおこないました。その結果は驚くべきもので、要介護認定を受けていなかった「元気な」高齢者3331人のうち、4分の1近く(23.9%)の方が、震災前よりも歩くことが難しくなったことがわかりました。また、歩行以外の身の回りの動作といった生活動作にも低下がみられました。

そして、発災から1年7か月後に再度調査をおこなうと、要介護認定を受けていなかった3680人の29.1%が、歩行困難が回復しないままの状態であるなど、発災7か月後の時点よりも状況は悪化していました。7か月を過ぎてからも新たに低下した人が発生していたのです。更に高齢者については、昨年まで毎年同様の調査をおこない、新たな発生者が生じていたことが判明しています。このように、災害時、生活不活発病は同時多発的に起こります。そして災害直後だけでなく、中・長期にわたり新たに発生していくのです。

写真1・2 東日本大震災被災地での調査の様子

写真1

南三陸町:支援保健師等向け「生活不活発病」研修会の様子

写真2

南三陸町:町外仮設住宅住民向け「生活不活発病」啓発の様子(登米市横山)

なぜ、災害時に生活が不活発になるのか? なぜ、災害時に生活が不活発になるのか?

災害後に生活上の動作が難しくなる原因は何でしょうか。災害でケガをしたり、避難所生活のストレスで病気になったり、それまでの病気が悪化したりしたせいではないかと思われるかもしれません。しかし、最も大きく影響しているのは、震災前と比べての「日中の活動性の低下」です。すなわち「生活不活発病」が最大の原因なのです。

では、なぜ災害時に生活が不活発になるのでしょうか。その主な原因は、①「することがない」、②「環境の変化」、③「遠慮」の3つに分けることができます。

①の「することがない」とは、災害後、毎日おこなっていた仕事や家事、趣味や外出ができなくなることや、地域での付き合いや行事がなくなることです。3つの原因の中で最も大きく、②の「環境の変化」や、③の「遠慮」も大きく影響してきます。

②の「環境」には、「物的環境」と「人的環境」があります。「物的環境」の影響は、周囲の道が危なくて歩けない、避難所でつかまるものがないので立ち上がりにくいなどがあります。「人的環境」の影響は、近くに知人がいないため外出しない、散歩もおっくうになること、また、ボランティアや支援者の方が、「やってあげることがよいこと」と思って、本人のやれること、やりたいことまでやってあげてしまうことがあてはまります。

③の「遠慮」は、たとえば「休んでいていいよ」と周囲から言われ、本人自身も「迷惑をかけないように」と遠慮して動かなくなっていたり、「災害時に散歩やスポーツをするなんて」と周りの人に思われるのではないかと、本当はやりたいのに、趣味などを制限してしまうことです。

これらの3つの間には、図1での矢印で示したように、互いに促進しあう相互作用があります。②「環境の変化」や③「遠慮」は、①の「することがない」状態をつくる要素となるのです。

図1:災害時に「生活の不活発化」を生む原因とそれらの相互関係

※災害時に「生活の不活発化」を生む原因とそれらの相互関係の一例
例1:人的環境変化 + 遠慮=することがない ⇒ 動けない・動かない
支援者が「やってあげるのがよいことだ」と思って全てをやってしまい、被災者も遠慮して「手伝う・自分でやる」と言いづらくなり、活動・社会参加が低下してしまう
例2:物的環境変化 + 遠慮 =することがない ⇒ 動けない・動かない
避難所でつかまるものがなく立ち難いが、人の手を煩わせたくないと遠慮をして、日中横になったままの時間が長くなる

生活不活発病は“悪循環”を引き起こして進行 生活不活発病は“悪循環”を引き起こして進行

生活不活発病は、ちょっとしたきっかけから起こってきます。避難所の中で床に座りきりであったり、震災前におこなっていた活動をおこなわなくなったりなどです。そして、その結果生じてきた生活動作(日常生活上の動作)の不自由さは、初めはたいしたことがないように見えても、放置しておけばどんどん進行していきます。「動かない」→「そのために生活不活発病が起る」→「そのためますます動きにくくなる」という、「悪循環」が起るからです(図2)。

この悪循環を脱するには、生活が不活発になる前の状態にまで戻すこと、すなわち「よく動く」→「生活不活発病が軽くなる」→「いっそうよく動く」という「良循環」をつくることが必要です。

動かない(生活が不活発) 生活不活発病 動けない動きにくい 図2:生活不活発病の悪循環 出典:大川弥生(2013)『「動かない」と人は病む ~生活不活発病とは何か』講談社現代新書

予防が第一:チェックリストの活用を 予防が第一:チェックリストの活用を

災害時における生活不活発病対策には、「予防」することが第一です。災害後は、ほとんどの方が生活が不活発になりますので、生活不活発病が生じやすいと考えてください。また、周りの方々、支援をする方々は、被災された方の生活が活発になるにはどうしたらよいか、今の支援のあり方がかえって生活を不活発にしていないだろうか、と考え、工夫をしてください。

このように予防することが第一ですが、残念なことに生活不活発病になってしまうこともあります。その際は、生活不活発病を早期に発見し、早期に働きかける「水際作戦」が大切です。「水際作戦」とは、生活動作の低下、およびその危険性を早期発見・早期対応し、生活を活発化するきっかけをつくることです。一見元気な高齢者でも、早く働きかけないと急激に生活不活発病が悪化することがあります。

では、「水際作戦」のために具体的に何ができるのでしょうか。

生活不活発病は「生活動作の不自由さ・難しさ」として現れるので、生活不活発病の早期発見には、「生活不活発病チェックリスト」(図3)を活用してみてください。これは「災害前」の状況と「現在」の状況を比較して判断することができ、どのような生活行為が難しくなっているのかを明らかにすることができます。要注意(赤色の□)に当てはまる場合、身の回りのことや家事などが災害前よりやりにくくなったと感じたときは、保健師、救護班、行政、医療機関などに早めに相談してください。

ただし、生活を活発にするには、充実した生活を送り、そのために自然と体や頭を働かせることが基本です。専門家に相談するだけでは十分ではなく、生活を活発にする工夫をしてください。

写真3 南三陸町:住民向け「生活不活発病」啓発の様子

写真3 南三陸町:住民向け「生活不活発病」啓発の様子(戸倉町)
※「生活不活発病チェックリスト」で自分の状態の確認
ご近所の人、友人についても考えてみた

生活不活発病の予防・改善は、「生活の活発化」 生活不活発病の予防・改善は、「生活の活発化」

生活不活発病の予防・改善の鍵は、「生活の活発化」です。これは、生活不活発病の個々の症状(筋力低下など)の改善や、「できるだけ体を動かせばよい」ということではありません。災害前より生活を活発化しないと、災害で生じた生活不活発病を改善することはできません。一番大切なのは、その人らしい、活動的な生活を送ることで、さまざまな種類・内容の動作をおこなうようになり、その結果自然に頭や体を使う機会を増やしていくことです。

避難所や被災地の中でも、役割をもち、遠慮なく楽しんで

「いきいきライフデザインマガジン 第1回」でも述べましたが、生活不活発病を予防・改善するためには、生きがいのある活発な生活を送ることがポイントで、それは生活不活発病を予防・改善する手段であり、実は目的でもあるのです。そして、「生きがいのある活発な生活」とは、具体的には「社会参加」が活発な状態です。災害時における生活不活発病の予防・改善のポイントも、平常時と共通しており、「することがある」ようにすること、すなわち社会参加の機会を増やしていくことが必要です。しかもその「すること」は、周りの人がつくって与えてくれるものではなく、復興の主体となる被災者ご本人が、積極的に関与して見つけ、家庭や地域社会の中で「役割」を果たすことが大切です。避難所の中でも、炊き出しの手伝いをしたり、子供の世話をすることもあるでしょう。避難生活をされている方の中で、このようなことを手伝ってもらえる方はいないか、ボランティアや支援者の方も声をかけていただくとよいでしょう。被災者自身は遠慮して、「手伝います」と言えないことも少なくないのです。また、散歩やスポーツをしたり、趣味を楽しんだりするよう声をかけていただくのもよいでしょう。このように、地域の方々や、ボランティアや支援者の方々も一緒に、地域活動の中にご本人の「すること」の機会を増やすためにはどのような支援が必要か、つまり「充実感をもつ」「生活が活発になる」きっかけをつくるための支援を考えていくことが大切です。

最後になりましたが、今回のコラムが被災地の方のお役に立ち、少しでも早く通常の暮らしに戻ることができるよう、お祈り申し上げます。

大川弥生(おおかわやよい)先生プロフィール

佐賀県生まれ。久留米大学医学部大学院修了。
東京大学助手、帝京大学助教授、(独)国立長寿医療研究センター 生活機能賦活研究部部長を経て、現在、国立研究開発法人 産業技術総合研究所 ロボットイノベーション研究センター 招聘研究員。
専門領域は、生活機能学、リハビリテーション医学、介護学

主な著書:『「動かない」と人は病む 生活不活発病とは何か』
『新しいリハビリテーション 人間「復権」への挑戦』

編集後記 編集後記

中尾洋子 パナソニック(株) デザイン戦略室 課長 / 全社UD担当

大川先生は、2004年から被災地での生活不活発病の問題に取組まれ、今回も熊本地震の支援で大変お忙しい中、少しでもお役にたてればと、ご寄稿頂きました。今でも本当に大変な状況が続いていると思いますが、被災地では数か月でたくさんの方が生活不活発病により、日常生活が難しくなっているという事実を、まずはより多くの方に知って頂きたいです。一日も早い復旧をお祈りいたします。