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犬山動物総合医療センター代表
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超高齢化が進むなかで、ペットと暮らしている人は健康寿命がのびる、認知症になりにくいなど、高齢者とペットの関係が注目されています。
高齢者がペットとふれあうことで心身の健康にどのような効果が期待されるのか、またペットと暮らす上で気をつけたいポイントなどを、獣医師団体Team HOPE(チームホープ)ならびに犬山動物総合医療センターの代表を務める太田亟慈先生におうかがいしました。
アニマルセラピーという言葉を聞いたことがありますか? 動物とのふれあいによって心身の機能を高め、生活の質を高める療法のことです。
アニマルセラピーには、医療従事者が医学的な治療を目的に行うAAT(アニマル・アシスト・セラピー/動物介在療法)と、AAA(アニマル・アシスト・アクティビティ/動物介在活動)の2種類があります。AATは、手に麻痺のある人が犬とボールで遊ぶことでリハビリをしたり、心身に障害のある方が馬に乗ることで心身の機能を向上させるなど、治療行為の一環として行われるもので、あまり一般的ではありませんが、AAAは全国の高齢者施設や保育園など幅広い施設で広がっています。
私も月に2回、犬を連れて地元・愛知県犬山市の高齢者施設を訪問していますが、高齢者の方々がとても穏やかな顔になられます。
医学的な研究でも、動物とふれあうことで血圧が下がるとか、ふわふわした毛をさわったり話しかけたりするとオキシトシンという幸せホルモンが出て情緒が安定するなどの効果が報告されています。ペットと暮らしている人は、高血圧や糖尿病などの生活習慣病になりにくいとも言われますね。
それから、認知症やうつなどで、うつろな表情をされている方も、犬を見ると急にイキイキとされます。自閉症の子どもたちの施設でも、最初は犬を見ても全然反応しなかった子が、何度か行っているうちに「また来てね」と言ってくれるようになります。犬とふれあうなかでやはり何か感じるものがあるのではないでしょうか。
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つい最近、知り合いが、子どもが3人巣立って「さびしいさびしい」としきりに嘆いていました。私が犬を勧めたら、初めは「腰が痛くて、散歩もできないから」といやがっていましたが、いざ一緒に暮らし始めたらすぐに夢中になって、今ではすっかり元気になりました。
子育てが終わって、ろくに話もしなくなっていたご夫婦が、ペットと暮らすようになったら会話が増えて仲良くなったという例もたくさんあります。
ペットは野生の動物とちがってひとりでは生きられません。毎日人間が世話をしないといけない。犬なら毎日決まった時間に散歩をさせないといけないし、おしっこやうんちの世話も必要です。食事もやらなければいけない。手間がかかります。その代わり、世話をすればするほど、ペットはなついてくれて、絆が深まります。そのご家族に生きがいを与えてくれ、生活にうるおいを与えてくれます。
たとえば、私が夜帰宅してドアを開けたとき、まっ先に出迎えてくれるのはペットです。うれしそうに走ってくる姿を見ると、それだけで癒やされます。ちなみにうちの家内はまず来ません(笑)。
近年は人の寿命がのびましたが、じつはペットも高齢化しています。犬も猫も14~15歳まで生きるのがあたりまえになってきました(図1)。運動不足や過食で肥満になると、関節病になります。関節を痛めるとますます動けなくなるから、今度は認知症になる。そんなところも人間とまったく同じです。
ただ、人間とちがって、ペットの肥満はご家族がしっかりコントロールすることで防げます。
うちでは私が犬にごはんをあげるのですが、いつもより多めにやるとすごくうれしそうにするので、ついやりすぎてしまい、1か月もすると、明らかに太ってしまったことがあります。動物病院でいつも「ごはんをたくさんあげてはダメですよ。お父さんにも言っといてください」とご家族にお話ししてきたにもかかわらず、自分でもうっかりやってしまい、ペットの食事は本当に家族がきちんと管理しないといけないのだなと痛感しました。
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出典:ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」2017年
ペットが太りすぎかどうかは、ボディコンディションスコア(BCS)というチェック法があります。上から見て腰にくびれがあるかどうか、横から見ておなかが腰に向かってつり上がっているかどうかを見てください。また上からおなかを触ってみて、肋骨を感じるかどうか。ほどよく脂肪が乗っているのが理想的です。ペットも人間と同じで、肥満になると、膝が痛くなったり、関節炎が出たりと不具合が出てきます。太っている方がかわいいから、などと思って大目に見てしまわず、ペットの健康のために日頃から体型の変化に気を配ってください。

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
出典:環境省「飼い主のためのペットフード・ガイドライン〜犬・猫の健康を守るために〜」
私の病院では、これからペットと一緒に暮らしたいという方のための無料相談を行っています。お子さんが小学生になって手がかからなくなったからペットがほしいという方や、お子さんたちが巣立ってさびしいからという方、さまざまな方がいらっしゃいます。
最近増えているのが、60歳を超えて「ペットがほしいけれど、これから新しいペットを迎えて、最後まで世話をできるのか?」と不安を感じている方々です。先ほども言いましたように、今は犬や猫も14~15歳まで生きるのがあたりまえですから、それまで元気でいられる自信が持てないとおっしゃるのです。たしかに70代、80代で大型犬の散歩をしたり、介護をしたりするのは大変なことです。
でも、小型犬や猫なら散歩に行かなくてもいいので、それほど負担にはなりません。介護にしても、おしっこを垂れ流すようになったらオムツをすればいいし、寝ている時間が長くなってきたら褥瘡(じょくそう)をつくらないためのマットもある。認知症にはよく効くサプリメントもあり、高齢のペットのケアに関するノウハウが確立してきています。ですから、いくつになってもあきらめることなく、ペットとふれあえる暮らしを楽しんでいただき、ペットの世話をすることでご自身の健康も維持していただければと思います。
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
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1954年生まれ、名古屋市出身。獣医学博士(Ph.D)
1977年北里大学畜産学部獣医学科卒業、犬山動物病院入社。1998年犬山動物総合医療センター院長、2009年より北京農学院動物科学技術部臨床獣医学客員教授に就任。2014年から同センター代表に。2016年より全国の獣医師が協力してペットの未来を考える「Team HOPE」を起ち上げ、ペットの予防医療に取り組む。自身も自宅で2頭、病院で1頭の犬を飼う。

中尾洋子 パナソニック(株) デザイン戦略室 課長 / 全社UD担当
私も犬を飼っていますが、寄って来てかわいい顔で見つめられると癒されます。犬を連れて施設に訪問されている先生のお話を聞いて、改めて動物とのふれあいが人の心身に良い影響を与えることがよく分かりました。そろそろ犬の高齢化も気になっていましたが、認知症によく効くサプリメントまであるとは安心ですね。ペットの健康管理にも気をつけて、ペットも人間も、健康で長生きできるようにしたいですね。