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NPO法人日本コンチネンス協会会長
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成人女性の4人に1人が悩んでいると言われる泌尿器系のトラブル。「トイレが近い」などの悩みがあると、外出を控えてしまったり、気持ちも後ろ向きになったりしがちです。でも、骨盤底筋を鍛えることで、泌尿器系のトラブルの予防や改善ができるのをご存じですか?
排泄ケア専門ナースとして活躍を続け、NPO法人日本コンチネンス協会の会長をお務めの西村かおる先生に、泌尿器系のトラブルに対する正しい対策の方法をうかがいました。

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まず尿をためて体外に出すまでの泌尿器の仕組みを簡単に説明しましょう。
腎臓を通った血液はろ過されて、不要な水分や老廃物が尿となって膀胱に溜められます。膀胱は腸や胃と同じように、自律神経にコントロールされているため、自分で動かすことはできません。排尿後の膀胱はぺちゃんこになっていますが、尿がたまってくると少しずつ伸びて、半分ぐらいたまったところで、脊髄神経を通して「尿がたまってきましたよ」という最初の信号を大脳に送ります。この信号を無視すると、尿意はいったんなくなり、膀胱がいっぱいになるギリギリまで我慢すると、今度は鳥肌が立ちます。そこまで我慢できるのが正常な状態です。トイレが近いから、心配だからと言って、膀胱に尿が十分溜る前に排尿をしていると、膀胱は伸びることがないので、縮んで小さくなります。そうなると、十分な量の尿を貯めることが出来なくなり、ますます頻繁にトイレに行きたくなります。ある程度は溜めて出すようにした方が良いんですよ。「トイレを我慢すると膀胱炎になる」と思われている方も多いですが、膀胱炎になりやすくなるのは、水分をとらずに5~6時間もトイレに行かない場合です。
尿をためる働き(蓄尿)を司るのは交感神経ですが、排尿を司るのは副交感神経です。トイレに行って下着を下ろして、準備が整った段階で、副交感神経に切り替わり、尿道が開き、膀胱が収縮します。排尿が終わると、再び膀胱は交感神経に切り替わり、再び畜尿を始めます。
尿をためて、体外に出す。こうした泌尿器のはたらきは、じつは非常に緻密で高度なメカニズムによってコントロールされているのです。
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また、特に夜間の頻尿にお悩みの方も多いのではないかと思いますが、寝る前に水分を取りすぎている可能性があります。心筋梗塞や脳梗塞を心配するあまり、大量に水分を飲まれていませんか?夜中に2回以上トイレに行かれるようなら、飲む量を減らしてみて下さい。何事もやり過ぎは禁物。一人一人違うので、何mlが最適とは言えませんが、自分の身体の声を聞いて、自分自身に最適な量を調整すると良いですよ。
男性に比べると、女性の尿道は短く、3~4cmしかありません。しかも、尿道口までまっすぐに伸びているので、尿道口から雑菌が入りやすく、膀胱が上から押されやすいというデメリットがあります。また、骨盤内にある臓器を、ハンモックのように支えている骨盤内にある骨盤底筋群という筋肉が、加齢や妊娠・出産、肥満などでゆるむことから、尿のトラブルが起こりやすくなります。
「トイレが心配で外出を控えてしまう」「ニオイが気になる」などの悩みをお持ちの方は、早めに泌尿器科や女性科などをお訪ねください。


実は尿自体にはニオイ(悪臭)はありませんが、空気に触れると雑菌が繁殖してニオイ(悪臭)が発生します。専用のパッドは、それにもきちんと対応できるよう考えて作られています。
ティッシュやトイレットペーパー、専用でないパッドでのケアは、ニオイや肌のトラブルの元になってしまいます。活動的な毎日を送るためにも、専用パッドなどの利用をお薦めします。今は幅広いラインナップがあるので、ご自身にあったものを選ぶことが出来ます。自分にあったものが分からないという人は、薬局で相談されたり、メーカーの電話相談を利用されると良いと思います。
適切な排尿を行うためのもうひとつの条件は、出口である尿道がきちんとしまっていること。そのためには、加齢や妊娠・出産、肥満などでゆるんでくる骨盤底筋を自分で鍛えることが大切です。
骨盤底筋とは恥骨から尾骨に向かってハンモックのように張っていると同時に、肛門や膣や尿道を締める筋肉に巻き付いて、編み目のように張りめぐらされている複雑な形の筋肉群です。大きく3層に分かれていて、一番奥の縦に張ってある筋肉と2層目の横に張っている筋肉は自分では動かせない筋肉ですが、肛門や膣や尿道を締める筋肉は自分で締めることができます。また、ここを鍛えることで、骨盤底筋全体を上下させることができ、排尿に関するトラブルの予防や改善につながります。女性に限らず、男性もまた加齢に伴って弱まってくる骨盤底筋を鍛えることで、泌尿器系のトラブルを改善することができます。
次回は、骨盤底筋を鍛える体操等について、詳しくお話しします。
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1957年生まれ。東京衛生病院に訪問看護婦として勤務の後、英国にて地域看護コンチネンスアドバイザーについて失禁看護を学ぶ。帰国後、1990年にコンチネンスセンター(排泄ケア情報センター)開設。1993年に日本コンチネンス協会を設立。2009年にNPO法人化。日本初の排泄ケア専門ナースとして、排泄に関する悩みやアドバイス、情報提供を行っている。
主な著書に『パンツは一生の友だち』(現代書館)、『『排泄ケアワークブック』『アセスメントに基づく排便ケア』(中央法規出版)、『ナースのための尿失禁ケアハンドブック』(医療ジャーナル社)、『らくらく排泄ケア』(MCメディカル社)、『「排泄学」ことはじめ』(医学書院)、『患者さんと介護家族のための心地よい排泄ケア』(岩波書店)など多数。
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中尾洋子 パナソニック(株) デザイン戦略室 課長 / 全社UD担当
毎日何回もするのに、意外ときちんと知らなかった尿のこと。今回は先生にしくみから詳しく教えて頂けたので、正しく理解することが出来ました。寝る前飲むお水は何mlが良いのかとか、どれくらい尿を我慢したら良いのか等、つい聞いてしまったのですが、個人差があるので自分の身体の声をちゃんと聞いて、適量を知らなくてはいけないのですね。次回は骨盤底筋の鍛え方を教えて頂きますので、お楽しみに。