美容研究家/ヘア・メイクアップアーティスト
「きれいになることに、年齢制限はありません」とおっしゃる84歳の現役美容研究家、小林照子さん。実際にお会いしてみると、先生のお肌はつるつるで、笑顔が輝いておられました。20歳で美容の世界に入られてから、数々のヒット商品を生み出されただけでなく、プロのメイクアップアーチストを育てる「フロムハンド」メイクアップアカデミーを設立して多くの後進を育成されたり、メイクアップを軸に社会貢献を目指すジャパンメイクアップアーティストネットワークで理事長をされるなど、様々な活動を意欲的に行われています。60年以上にわたって築き上げてこられた美容理論やノウハウを元に、看護や介護の現場でも美容ケアの力を示され、美容で健康寿命を延ばせるとおっしゃる小林照子さんに、これからの人生を美しく生きる秘訣をうかがいました。
女性ホルモンに守られている若い女性は、血液循環も良く、肌もうるおっています。ところが、更年期を過ぎると、女性ホルモンは失われ、心配事も増えて、鏡を見れば、シミ、シワ、たるみ・・・。そうなると、心も落ち込んで、元気もなくなっていきがちです。
一夜干しの魚を思い出してみてください。表面が乾いてパリパリしているでしょう。乾燥した肌というのはあれと同じなのです。肌が乾いてつっぱっていると笑いにくい、そのままだんだん無表情になって、見るからにキゲンの悪そうな人になっていきます。
表情筋というのは、骨を動かす筋肉とはちがって、皮膚にピタッと密着している筋肉です。皮膚が乾燥していると、表情筋もつっぱって動かなくなります。よく「笑うとヒビが寄るから笑えないわ、オホホ」なんて言う人がいるでしょう?あれは乾いている証拠。
一方、「シミもシワもあるけど気にしないわ」とアクティブに生きている人は、アクティブだからこそ肌も乾いていません。活動的で、よくしゃべり、よく笑うから、血液循環が良く、肌にも栄養が届いています。〈ほがらか〉でいることが女性ホルモンの代わりを果たしているのです。
皮膚は排泄器官で、その一番上に来ているのが角質層。古くなった角質は垢となって剥がれていくものです。何層にもなっている角質層が乾いているのは、カラカラに乾いた枯れ葉が何枚も重なってちょっとめくれている。そんなイメージです。
だから、そこにうるおいを与えれば、すぐに表面がもっちりと柔らかくなります。皮膚がうるおって、表情筋がラクになると、無表情だった人もほがらかになって、明るくなります。
以前、国立がん研究センター中央病院乳腺外科の木下貴之先生(現在のご所属は、独立行政法人国立病院機構東京医療センター副院長、乳腺科)から、「抗がん剤の副作用で眉毛や髪の毛が抜けると免疫力が下がってがんが再発しやすいから、美容のチカラで患者さんの免疫力を高められないか」というご相談がありました。それで、何度か病院にうかがってフェイシャルケアやハンドケアをさせていただいたら、さっきまでぐったりしていた方が、だんだんほがらかになって、「今日はお見舞いの人を断っちゃったけど、もういちど連絡して来ていただくわ」と、元気になられる。その様子を見て看護師さんたちが本当にびっくりされていました。
都心のある高齢者施設で認知症の方々の美容カリキュラムを行ったときも、みなさん驚くほどほがらかになられましたよ。キレイな色のタオルで、いい香りのするエッセンシャルオイルも足して、蒸しタオルをつくり、手をよく温めてもらってからマッサージをすると、フワーッといい気分になって自然と笑い声が出るんです。
誰かにやさしくされたとか、愛情を受けたとか、美容はそんな感覚を人にもたらすのだと思います。愛されることでスイッチが入ると、元気のなかった人が明るくなられる。免疫力を上げるのは笑顔。元気のない人に元気を注入するのが美容のチカラです。
いま、私はN+BC(ナーシング・プラス・ビューティケア)という活動をしています。療養中の方、介護が必要な方が、自分らしく身だしなみを整え、ハリのある生活をするために、看護や介護の現場で美容ケアの力を活用していただく活動です。
海外の高齢者施設を見学する機会も多いのですが、オーストラリアのシドニーで女性の厚生大臣に紹介して頂き、ミドルクラス向けの介護施設を見学してとても驚きました。ベッドがどれもきれいにベッドメイクされて、寝ている方がひとりもいないのです。案内してくれたケアマネージャーに「誰もいないのですね」と言ったら、「だって今は寝る時間じゃないですから」と言われました。「今頃は、食堂を出て図書室にいますね」と。それで図書館に行くと、ますますびっくり。ストッキングにハイヒールを履いて、イヤリングやネックレスもつけて、中には肘掛けイスにもたれて居眠りしている方もいるけれど、みなさんきちんとドレスアップしているのです。聞けば、毎朝有償ボランティアの方が来られて、「さぁ食事に行きましょう」と着替えを手伝うのだそうです。「さぁ、今日はどれにしましょうか」と。
人間というのは、寝間着を着て寝ているときは誰にも会いたくないけれど、誰かに会うとなると、身なりを整えます。そこから社会性のスイッチが入るわけです。ですから、身なりを整えることが寝たきりを防ぐのではないでしょうか。そもそも「寝たきり老人」などという言葉は日本だけのもので、英訳はできないそうです。
時代の空気ってありますよね。パンツと靴の間から足首が少し見えているほうがかっこよく見えたり、すっぴんみたいなメイクのほうが今風に見えたり。そういう時代の空気を敏感にキャッチして少しずつ取り入れていくことも社会性の現れではないでしょうか。いくつになっても流行をさりげなく取り入れている人は素敵です。それから、流行とは関係なく「私はこれが好き!」と個性を大切にしている人も素敵です。
良くないのは、「見かけなんかどうでもいいわ」と投げやりになってしまうこと。誰もが風景の一部なのですから、身だしなみに無関心になると風景を汚すことになりますし、自分自身も汚れてしまいます。
「どうでもいい」と言う人にも、本当は自己愛があるのです。周りが「何言ってるの」「そんなふうにならないで」と言ってくれることを求めているのです。周りが言ってあげないと、「やっぱりどうでもいいのね」とどんどん落ち込んでしまいます。
だから、家族や、友人や、日本の社会全体が、もっと人の外見に関心を持って、いいところを上手に褒めることも大切ですね。誰だっていいところを見つけて褒められたらうれしくなって「もっと褒められたい」と思って努力するようになるでしょう。そうしたら、欠点なんていくらでもカバーできるのです。
きれいになることに年齢制限はありません。何歳になっても、きれいになろうとする心さえ持ち続けていれば、そして毎日ほんの少しのお手入れで自分を慈しむようにすれば、どんなに乾いてしまった肌もうるおうし、心もうるおってきます。人の体は、たとえいくつになっても、28日間で表皮が生まれ変わるようにできています。さらに、42日で細胞レベルから生まれ変わります。だから、今日から毎日お手入れを続けたら、どんなにがさがさのお肌でも42日後にはふっくらうるおっているのです。
日本の女性はせっかく90歳近くまで生きられるのに、日常生活が問題なく送れる健康寿命は短いといわれています。でも、最後の10数年をぼんやりと生きることになるなんて本当にもったいないと思うのです。私は美容で健康寿命を延ばせると思っています。もっと自分を慈しむことで、これからの人生をほがらかに、美しく生きてください。
美容研究家・ヘア&メイクアップアーティスト
1935年生まれ。株式会社コーセーにおいて35年以上にわたり美容について研究、時代をリードする数多くのヒット商品を生み出す。85年に同社初の女性取締役に就任。91年、56歳で同社を退任後、美・ファイン研究所を設立。また、[フロムハンド]メイクアップアカデミー、青山ビューティ学院高等部 東京校・京都校で多くの後進を育成中。著書に『人を美しくする魔法』(マキノ出版)、『これはしない、あれはする』(サンマーク出版)『きれいはげんき』(宝島社)『小林照子流 ハッピーシニアメイク』(河出書房新社)、『人生は「手」で変わる』(朝日新聞出版)、『50歳から始める「きれい!」の習慣』(きずな出版)、『48歳からの「いい男」の条件』(きずな出版)などがある。
中尾洋子 パナソニック(株) 全社UD推進担当主幹
いつまでもいきいきと暮らすには「社会参加」が大事と教わってきましたが、身なりを整えることが社会性のスイッチになるのですね。先生が実践された病院や施設での美容カリキュラムのお話しをお聞きして、素晴らしい効果に驚きました。美容は自分に愛情を注ぐ行為であると同時に、自分に自信を持つことにも繋がり、外見と心の両面に良い効果をもたらすのですね。私も、まずは手の保湿から始めています。
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