画像:ご年配の方と、その家族友人ががイキイキと暮らしているイラストイメージ 画像:ご年配の方と、その家族友人ががイキイキと暮らしているイラストイメージ

いきいきライフデザインマガジン

第36回初めてのオンラインは、 “最初の一歩” のサポートが大事

写真:前田亮一さん 写真:前田亮一さん

作業療法士/株式会社UDワーク代表

前田亮一(まえだ りょういち)さん

コロナ禍でも、オンラインという「窓」があれば、離れて住む家族やお孫さんと顔を見ながら楽しくおしゃべりでき、家にいながら地域の活動に参加することができます。なかなか外に出られないときこそ、デジタル機器が強い味方になります。「スマホなんかムリ」と尻込みしていた人も、最初の一歩を踏み出して、“つながる感動”を実感すれば、うつうつとした日々が明るく前向きに変わって行きます。
コロナ禍で孤立しがちなシニアの方々をオンラインで地域につなぐサポートをされている前田さんにお話をうかがいました。

コロナ禍の孤立をオンライン化で防ぐ! コロナ禍の孤立をオンライン化で防ぐ!

茨城県つくば市で、作業療法士としてリハビリテーションに携わりながら、2014年から自宅に引きこもりがちなシニアの方と地域をつないで生きがいを引き出すUDワークという任意団体をつくり、外出支援を中心に活動してきました。
孤立を防ぐために大切なのは、は「外出」と「情報」ではないかと思っています。
例えば認知症の方、「色々とあきらめて引きこもりがちですが、じつはいろいろな経験をお持ちで、得意なことに眼を向ければ、地域とつながる可能性があります。「子どもたちに何かしたい」という方が多いので、地域のイベントに参加していただいて、子どもたちに料理をふるまったり、読み聞かせをしたりと、一方的にお世話されるだけでなく、地域で支え合う仕組みができていました。
それなのに、コロナ禍で地域活動が中止になり、週に1回県外から訪れていた家族も来ることができなくなってしまった。感染を恐れて医療者の訪問すら断る方もいる。このままではシニアの方々の生活が成り立たない!という危機感から、オンラインで交流を続けられないかと、2020年4月、第1回目の緊急事態宣言が始まる前から取り組みをスタート。クラウドファンディングを行って必要な機材を整え、全国社会福祉協議会や全国の企業とも連携しながら各地のオンラインサロン運営の支援活動を行ってきました。

写真:ご年配の方々に、スマートフォンの使い方などを教えたり、スマートフォンを使ったりしている様子

オンラインが可能性を拡げ、生きる喜びを取り戻す! オンラインが可能性を拡げ、生きる喜びを取り戻す!

オンライン化支援の取り組みは、初めは逆風続きでした。「オンライン帰省」など「オンライン」という言葉は知っていても、「自分には無理」と本人が思うし、家族にも反対される。オンラインについて説明すればするほど、「だまされるんじゃないか」と警戒されるのです。それでも、この2年間で、オンラインがシニアの方の心身の健康につながるツールだということがかなり理解されるようになってきました。
大切なのは、オンラインを使って何をしたいか。健康を維持するためとか、お孫さんや友だちと会うためとか、その方にとっての必要性や目的が大事です。
例えば、2か月のリモートレッスンでタブレットを使えるようになった認知症の80代女性は、元通訳の語学力を生かして中学生の男の子にリモートで毎週英語を教えるようになりました。要介護の身を嘆いて「もう死にたい」とまでおっしゃっていたのが、今では「この子が高校生になるまでは死ねないわ」と張り切っておられます。
「はじめてオンライン」と題したワークショップを開催した際は、最終目標を有名な先生とオンラインでお話し出来ることに設定していました。実際に参加された女性が、「これを使えば、大好きな先生と直接お話ができる!」と目を輝かせておっしゃっていたのも印象的でした。普通には会えない人と話が出来たり、行けない所の景色も見れる。外出が難しい方にとって、オンラインは、いわば「どこでもドア」なのです。

写真:タブレットを通して、中学生に向けてリモートレッスンで英語を教える80代の女性

「初めの一歩」でつまずかないように、細心のサポートが必要 「初めの一歩」でつまずかないように、細心のサポートが必要

3Gサービスの終了に伴い、ガラケーからスマホに切り替える方も増えてきました。
ただ、せっかくスマホを使い始めても、初めの一歩でつまずくと、「やっぱり無理!」とあきらめてしまいます。真面目な方ほど傷つきやすいので、先回りしてつまずきそうな要素を除いてあげる必要があります。何につまずくかは一人ひとり違うので、その方に合わせたサポートが必要ですが、スマホに入ってくる情報はできるだけ少なくすることが大事です。便利な機能もたくさんありますが、情報が多くなりすぎるとかえってストレスを感じてしまいます。
「最初はできないこともあるけれど、だんだん慣れていけば大丈夫」と、あらかじめ心構えを伝えることも大事です。ちなみにシニアの方は、スマホの操作でわからないことがあっても、家族には聞きません。家族に聞くのは申し訳ないし、嫌がられたくないという気持ちがあるのです。ですから、オンラインのスマホレッスンを何度でも受けられるとか、電話でサポートを受けられる仕組みづくりなど、シニアの方が遠慮せずに学べる工夫が必要になります。
通信費や使用料などを気にされる方も多いので、そのあたりも明確にしたいですね。私たちのオンラインサロンの場合、週1、2回のご利用であれば、Wi-Fi環境なしでも通信費は月に2~3千円ですとお伝えしています。

写真:会議室でリモートレッスンのやり方を受講する女性

コロナ後もスマホやタブレットが強力なツールに! コロナ後もスマホやタブレットが強力なツールに!

コロナがなくても、シニアの方は、免許を返納すると外出の手段がなくなり、生活が一変してしまいます。
そんなときスマホやタブレットがあれば、家族や友だちや地域の支援者とコミュニケーションを密にとることができるし、オンラインで自分の好きな活動に参加することができる。これから超高齢社会が進行し、寿命はますます伸びるのに、社会保障費はなかなか増やせない中で、ひとりで取り残されて不安を感じる方が増え、それを支える家族も困窮していきます。そういう2030年問題を考えるうえで、やはりデジタルは強力なツールになると感じています。

前田亮一さんプロフィール
写真:前田亮一さん 写真:前田亮一さん

作業療法士/株式会社UDワーク代表

作業療法士として在宅医療・介護に16年従事。法政大学地域研究センター 客員研究員。認知症フレンドリージャパン・イニシアチブ(DFJI)交通プロジェクト代表として、認知症になっても安全に外出ができる社会を目指して取り組むほか、高齢者や障害者の社会参加と多世代の地域のつながりプロジェクト「UDワーク」を茨城県つくば市で実践中。コロナ禍において、外出自粛による心身の衰えを予防するため、「オンライン・リハビリ」や「高齢者支援型オンラインサロン」を運営している。2022年2月より株式会社UDワークを設立。

編集後記 編集後記

人物イラスト:中尾洋子 パナソニック(株) 全社UD推進担当主幹

中尾洋子 パナソニック(株) 全社UD推進担当主幹

コロナ禍で外出が制限された時、オンラインのおかげで仕事もとめることなく、買い物はもちろん飲み会まで出来ましたが、そのような恩恵をネットを苦手とされている方は受けられていない現実があります。前田さんのされているような「自分には無理」と思われていた方も使えるようになるレッスンで、色々な可能性が広がっていくお話しを、是非多くの方に知って頂きたいと思いました。次回はネット家電についてお聞きします。