顕微レーザーラマン分析事例(残留応力評価・炭素材料構造分析など)
顕微レーザーラマン分析を用いることで、シリコンの残留応力評価、非接触温度測定、グラファイトやカーボンブラックなどの各種炭素材料の構造分析を行うことが可能です。
シリコンの残留応力評価
物質に圧力や応力を加えると結晶構造に歪みを生じます。
ラマン散乱光は物質の結晶構造・分子振動に起因するため、そのひずみによってラマン散乱光の周波数に変化が起こります。 単結晶シリコンロッドを4点曲げにより力を加えると、シリコンロッド中心の上側は圧縮応力がかかり、下側は引張応力がかかった状態になります。
このロッドの中心を測定したラマンスペクトルと応力に対するシリコンのラマンピークの波数シフトを示します。
シリコンのラマンピーク(520cm-1)が測定位置、すなわ応力の大きさによってシフトしていることが分かります。 この性質を利用して、ラマン分光法は物質の歪み・応力を解析する方法として活用され、イメージングにより残留応力・歪みマッピングによる応力状態の可視化が可能になっています。
シリコンウエハの非接触温度測定
当社では加熱ステージを用いたラマンスペクトルの温度依存性の評価が可能です。
例として、シリコンウエハのラマンスペクトルに対する温度依存性を示します。 ウエハ温度が高くなるほどストークス側のラマンピーク(520cm-1)強度が減少し、アンチストークス側のラマンピーク(-520cm-1)強度が増加していることがわかります。
試料温度と2つのピーク面積比は良い比例関係を示していることから、試料温度と2つのピーク面積比を予め測定し、 実際のサンプルのコンフォーカル測定を行えば、非接触で内部温度測定が可能になります。
炭素材料の構造分析
■炭素材料の分析
炭素材料としてよく知られているグラファイト、ダイヤモンド、カーボンブラックのほかに、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン、DLC (Diamond Like Carbon)なども炭素材料の一つです。 これらの炭素材料の構造分析にラマン分析が威力を発揮します。
炭素材料のラマンスペクトルには1330cm-1付近と1580cm-1付近に2つのラマンピークがあり、それぞれDバンドおよびGバンドと呼ばれています。
炭素材料の製造条件(材料構成や焼成温度、表面処理の有無など)によって、この2つのピーク強度比やバンド幅、ピーク位置が変化することから、炭化物の黒鉛化度(炭化度)や配向性などを評価することが出来ます。
■カーボンナノチューブの分析
カーボンナノチューブ(CNT)は、炭素六員環構造がつながった網目状のシート(グラフェンシート)が丸まった状態の構造をしています。 特に単層カーボンナノチューブ(Single-Walled Carbon Nano Tubes:SWCNT) はその特異な性質により、ナノマテリアルの1つとして注目されています。
ラマン分析では、このCNTの構造を分析する上で有効なツールです。
CNTのラマンスペクトルを示します。DバンドおよびGバンドのピーク強度比からCNTのグラフェンシートがきれいに生成されているかがわかります。 また、200cm-1以下の低波数側にもラジアルブリージングモード(Radial Breathing Mode:RBM)と呼ばれるピークが現れてます。
このピーク位置からCNTの直径や電気的特性を評価することが可能です。