パナソニック式 EMCデザインプロセス “SPIDER”
EMCについて、このようなお悩みをお持ちではないでしょうか?
組織として、EMC設計の技術レベルを上げるためには、設計ルールのデータベース化や、シミュレーションツールの導入、そして、エンジニアの設計セミナーへの派遣など、様々なアプローチが考えられます。しかしながら、これらの断片的なアプローチでは、その効果が十分に得られないケースが多く、必ずしもベストな方法とは言えないと私たちは考えています。
パナソニックでは、約10年前から、商品開発の現場でEMC性能を確実につくり込むための最適なプロセスを検討し、多くの事業場に適用してまいりました。それが、パナソニック式 EMCデザインプロセス “SPIDER(System of Panasonic Innovation Design for EMC Requirement)” です。SPIDERの導入により、EMC設計仕様の作成と適用、そして技術者の育成までが一貫して可能となります。また、SPIDERによる商品開発の経験を通じて、実践力のあるEMC技術者が育ちます。
パナソニック式 EMCデザインプロセス ”SPIDER” の導入による効果事例
SPIDERは幅広い製品に適用可能なEMC設計プロセスです。ここでは、SPIDERの概要についてご紹介いたします。
SPIDERのコンセプト
SPIDERは、「万能のEMC設計ルールは存在しない」という基本概念に基づいています。 EMC設計では、「前の商品では上手くいったが、今回は効果が無かった」という事例は数多くあります。また、仮に確実に効果があるという設計ルールがあったとしても、商品の基本性能への影響やコストとの兼ね合いで、適用することができないというケースもあるでしょう。
上記のようなリスクを想定すると、実際の商品開発の過程においては、当初から「商品ごとにEMC設計ルールを作る」というスタンスを取ることが最も合理的であると言えます。そして、そのためには衆知でアイデアを生み出し、検証を経て設計仕様化し、確実に商品設計に反映させてゆくことが必要となります。
SPIDERのアプローチと、全体の流れ
SPIDERには、3つの特徴的なアプローチがあります。それが、「マエダシ検討会」、「アトオシリスト」、そして「ミニ検討会」です。
「マエダシ検討会」の目的は、衆知で多くのアイデアを出すこと、「アトオシリスト」はそれらのアイデアをストックし、検証を通じて、EMC設計仕様にまで高めること、そして「ミニ検討会」は個々のアイデアの検証の場となります。
続いて、それらのアプローチを全体の流れを通じてご説明します。
最初に、SPIDERでは、EMCの検討を商品開発のメインフローと切り離して行います。これは、各設計担当の技術者が自らの設計範囲の枠を超えて一堂に集うことで、衆知を集めやすくし、そして最も適切な設計工程で、EMC設計を実施するためです。
例えば、機構設計にてアース接続が不十分であったために、回路設計でフィルタの追加が必要となるというケースは十分に起こりうることです。また、半導体の選定を慎重に行うことで、回路設計やP板設計の難易度を下げられることもあるでしょう。
つまり、各技術の枠を超えて、EMCを検討するためのフローを設けることは、必然と言えます。
まず、設計着手に先立って、「マエダシ検討会」を開催します。「マエダシ検討会」では、各技術者がアイデアを出すことだけに注力し、アイデアの有用性の検討は行いません。そして、出されたアイデアは、「アトオシリスト」として整理され、「ミニ検討会」と商品開発フローを通じてブラッシュアップされ、設計ルールとなってゆきます。
キーとなる検討ステップについて
「マエダシ検討会」では、各技術者がアイデアを出すことだけに集中できるよう、参加者が発言しやすい雰囲気作りと適切な誘導が重要となります。そのためにSPIDERでは、導入期に専門家(EMCファシリテーター)による運営サポートを行っています。
専門の技術を有するEMCファシリテーターによる雰囲気作りと的確な質問により、参加者の発言を促します。そして、異なる技術者同士のコミュニケーションを円滑にし、各技術者の経験&思考を最大限に引き出してゆきます。
なお、EMC設計のアイデアは実績のあるものに限らず、失敗事例や、前機種の仕様などから抽出してゆきます。そして、そのアイデアは次のステップである「アトオシリスト」へのインプットとなります。
「マエダシ検討会」で出されたアイデアは、「アトオシリスト」として各設計の工程ごと分類されます。この段階では、「アトオシリスト」は“玉石混淆“の状態です。そこから優れたアイデアを抽出し、設計仕様に反映させるため、「ミニ検討会」や「プレ検証」を実施します。
そして、決められた設計仕様については、各工程ごとに検証が加えられ、「アトオシリスト」にフィードバックされます。また、フィードバックの際は、結果の○×判定ではなく、どのような考えの元に仮説、検証を行ったのかの記録を残すことが重要です。各工程にて、この検証活動を繰り返すことで、最終の設計ルールが明確になってゆきます。
「ミニ検討会」は数ある設計アイデアを絞り込み、設計仕様に落とし込んでゆくことが目的です。
その際、必要に応じ、「プレ検証」として、シミュレーションや、各種評価を用いた判断を行います。この「プレ検証」における設計仕様の妥当性確認こそが、EMC性能のつくり込みに直結する重要なステップとなります。
SPIDERの5つのメリット
次に、SPIDERを適用することによる主なメリットを示します。SPIDERは自社開発の商品にEMC性能をつくり込むことを狙いとして開発されましたが、このアプローチは近年、主流となりつつあるODMにも適用が可能です。たとえODMであっても、EMC起因での商品開発の遅延や、市場での品質トラブルの発生は自社の問題となります。各工程での「押さえ所」を把握し、適切なフォローを行うことで、よりクオリティの高いODMが可能となります。
また、過去のEMC設計ルールの踏襲ではなく、新商品の開発ごとにEMC設計ルールのブラッシュアップを行うSPIDERでは、その経験を通じて、着実に技術者の実践力が養われてゆきます。
SPIDER導入と定着のための3つのポイント
実施経験の無いプロセスを、実商品の開発過程に取り入れることに躊躇される方もいらっしゃるかと思います。そこで、プロダクト解析センターでは、以下の3つの手法により、組織へのSPIDERの導入と定着をサポートしています。導入の初期段階では、弊社からのサポートの割合が高い状態にはなりますが、2~3年後を目処に自組織内で自走、完結できる姿を目標にしています。
「マエダシ検討会」の充実のために
「マエダシ検討会」をより充実したものとするために、お客様のご要望により、弊社にてお客様の商品をお預かりして、様々な視点からEMC設計のアイデア抽出を行っています。第三者の客観的な視点を加えることで、より広くより深いアイデア検討が可能となります。アイデア抽出の詳細につきましては、回路診断のページをご覧ください。