「ユーザー視点」での故障解析・トラブル解明

パナソニックは電子部品のサプライヤーであると同時に、電子部品のユーザーでもあります。 そして、私たちはこの「ユーザーの視点」を大切にしています。

電子部品は保管時の湿気や、実装時の機械的或いは電気的ストレス、さらには回路動作、市場での環境ストレスなど、様々な要因によって故障やトラブルに至る可能性があります。さらには、電子部品の製造時の不完全さが、前述の要因と重なることで、トラブルに繋がるケースも多く見られます。

市場にて電子部品の故障やトラブルが発生した場合、私たちは「ユーザーの視点」で、その商品がどのようなストレスに曝される可能性があるかを徹底的に検討し、仮説を立案、検証を行います。この仮説の立案能力が私たちの強みです。

また、トラブルの原因の電子部品を特定できない場合や、不具合現象が再現しない場合でも、専門分野の異なる技術者の衆知により、あらゆる可能性の中から仮説を立て検証を行ってゆきます。

なお、サプライヤーや、第三者分析機関の解析レポートで、原因究明に至らなかったケースなどでの、「セカンド・オピニオン」としての対応も実施しています。

故障解析における3つのポイント

故障解析において、私たちが特に重視しているポイントは次の3つです。

故障解析において、特に重視している3つのポイント ・解析時のストレスの排除 ・回路動作を考慮した仮設立案 ・原理に基づく再発防止の提示 故障解析において、特に重視している3つのポイント ・解析時のストレスの排除 ・回路動作を考慮した仮設立案 ・原理に基づく再発防止の提示

故障解析の着手に際し、まず留意すべきポイントは、故障解析の手段によって、サンプルの状態に影響を与えないようにすることです。故障部品をプリント基板から取り外す際のはんだゴテによる熱ストレスや、テスターによる電気的ストレス、或いは物理的な応力などによって、故障部品が良品化してしまうケースが少なからずあります。まず、これらの不必要なストレスを極力排除することが重要です。

続いて大切なことは、使われ方を考慮した仮説の検証です。例えば、半導体の故障の場合、部品メーカによる故障解析ではEOS(電気的オーバーストレス)と判断されることが大半です。仮に故障原因がEOSによるものであったとしても、重要なことは、EOSがどの過程で加えられたのか、或いはその部品自体に問題が無かったのかについて、仮説を立て検証を行うことです。そして、故障原因の真の原因を明らかにして初めて、原理原則に基づいた再発防止が可能となります。

以降、具体例を踏まえて、ご説明します。

解析時のストレスの排除

積層セラミックチップコンデンサの絶縁破壊故障は、チップコンデンサをプリント基板から取り外すことで良化し、現象が消えてしまう可能性がある故障のひとつです。
このようなケースでは、解析対象の部品に対して、熱や応力、電気的ストレスを与えずに故障部位を特定し、適切な手段にて断面加工し、解析することが必要となります。

以下の事例では、まずプリント基板にチップコンデンサが実装されたままの状態で、発熱解析を用いて故障箇所を特定した後、熱ストレスを加えないように断面を加工し、マイクロクラックの発生を確認しました。

故障個所-プリント基板に実装された状態のまま(非ストレス、非破壊)で、故障個所を特定→断面解析→マイクロクラック(特定した故障箇所に対して、熱ストレスを加えないように断面加工を行い、マイクロクラックを観察) 故障個所-プリント基板に実装された状態のまま(非ストレス、非破壊)で、故障個所を特定→断面解析→マイクロクラック(特定した故障箇所に対して、熱ストレスを加えないように断面加工を行い、マイクロクラックを観察)

解析時のストレスを排除するため、私たちは、徹底的に非破壊の解析にこだわります。まず、X線CT装置や、超音波探傷装置、発熱解析装置などの非破壊の解析手法で、故障箇所を探ります。そして、特定した故障箇所に絞って、解析のための最小限の加工(樹脂溶解や研磨など)を施し、詳細な観察を行います。

非破壊の解析手法(レーザー開封装置、超音波探傷装置、発熱解析装置)
サンプルへのダメージを最小限に抑えた前加工の図 実装状態に影響を与えないようプリントきばんの裏面から研磨とレーザ+酸による樹脂開封(銅ワイヤのダメージを最小化)

事例は「半導体の故障解析」「電子部品の発熱解析」をご覧下さい。

回路動作を考慮した仮説立案

故障部品がどのような回路で使われていたのかを理解することは、仮説を立てる上でとても大切です。故障部品が使われていた商品や、さらに一歩踏み込んでその商品の回路動作を理解することで、故障部品へのストレスを想定することができます。

例えば、雷サージや静電気などの外来サージが加わる可能性は無いのか?インダクタ成分の逆起電力によるサージは発生しないのか?熱や応力などのストレスが加えられることはないのか?など、回路設計の専門家が商品の回路動作を理解した上で、起こりうる可能性を見極め、故障に至るメカニズム解明の糸口を探ります。

仮説立案図 (逆起サージの可能性、熱ストレスの可能性、外来ノイズの可能性、2次破壊の可能性) 

原理に基づく再発防止の提示

故障箇所の特定と、故障原因が判明した後には、再発を防止するための策を講じる必要があります。 再発防止策を検討する上で重要なのは、故障メカニズムに対して、原理原則に基づいた対策を検討することです。必要以上に厳しい受け入れ検査や、スペックアップを行うことは、費用対効果の面でロスにつながるばかりか、再発防止に繋がらないこともあります。

以下はICのオープン不良の事例です。樹脂モールドと半導体素子の剥離により、ワイヤの断線が発生しました。この故障は、ICの保管時に雰囲気中の水分が樹脂モールド内に拡散し、ICの実装時のリフローはんだ付けの熱によってパッケージ中に水蒸気による圧力が加わり、樹脂と半導体素子が剥離したことが原因でした。この事例では、ICの保管環境の管理を行うことが有効な再発防止策となります。

1.故障箇所特定(樹脂モールドと半導体素子の剥離により、ワイヤが断線) 2.メカニズム解明(樹脂の吸湿と、実装時の熱ストレスによる水蒸気の圧力が剥離の原因)保管-保管時に水分が樹脂モールド内に拡散 リフロー実装(熱)-水蒸気の圧力で、樹脂とチップやリードフレームとの海面が剥離 3.再発防止(IC保管時の環境条件(温湿度)の管理を行う)

製品全般のトラブル解明

「不具合の現象が再現しない」、「故障の原因が分からない」といったケースでは、あらゆる可能性の中から、状況証拠と予備検討の結果を元に仮説・検証を行うアプローチが必要です。 電子回路技術者を中心として、EMCや信頼性などの関連の専門家がチームを組み、速やかに原因究明に着手いたします。「総合力による原因究明と早期解決」はプロダクト解析センターにしかできない強みです。

支援例

  • 商品の操作中にごく稀に動作がフリーズする。電源リセットで復帰するが、原因が分からない。
    ⇒EMC専門家を交えたヒアリングより、発生状況からノイズ起因の仮説を立案。検証を通じて通常のEMC規格では要求されない特殊な伝導ノイズが原因と断定。速やかな再発防止策の実施により、歯止めを実施。
  • 市場にて、スイッチング用のFET破壊が急増。電子回路の変更はしておらず、原因が分からない。
    ⇒ロット不良に注目。電子部品の信頼性の専門家による仮説を半導体の特性評価と内部観察により検証。
    部品メーカに対し製造工程の改善要求と、スクリーニング方法の提案を行い、解決。
パナソニックプロダクト解析センター(電気安全・環境ストレス・機構・材料・プリント基板・電子部品・電子回路・EMC)