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【EMC対策】雷サージ対策部品”バリスタ”の落とし穴
EMC設計・解析担当の政井です。
梅雨が明けて夏本番ですが、夏と言えば、雷!のシーズンでもあります。私たちは、これまで雷サージ対策についての記事をいくつか掲載しておりますが、今回は雷サージ対策の素子について話をさせて頂きます。
電子機器の内部回路の雷サージ対策にはバリスタを用いることが一般的ですが、このバリスタが、実際に効果があるかを確認されたことはありますか?また、バリスタをどこの位置に挿入したらよいのかをお悩みでないでしょうか?
プロダクト解析センターでは、バリスタ等のサージ保護素子の最適選定(設計診断)、回路図や機器を直接確認させて頂き、市場環境を想定した条件で試験を実施する不具合検証のサービスを行っております。今回はその内容の一部を紹介させて頂きます。
図1の実験回路は電源ラインL-N間にバリスタを挿入しない回路で、図2の実験回路は、バリスタ電圧0.35kVのバリスタを挿入した回路です。図1のオシロスコープ測定結果は電源ラインL-N間に+1kVの雷サージを印加した場合のL-N間の電圧波形です。設定通りに1kVのサージが印加されていることがわかります。図2のオシロスコープ測定結果に、バリスタ挿入時の雷サージを印加した場合のL-N間(黄色矢印)の電圧波形を示します。
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この波形から2つのことがわかります。
① 0.35kV以上の電圧はバリスタの効果があり、内部回路にサージ電圧が侵入しない。
② 0.35kV以下の電圧はバリスタの効果がなく、内部回路にサージ電圧が侵入する。
特に注意すべきは②です。内部回路の部品が耐圧0.35kV以下のものを使用している場合は、その部品が故障してしまう可能がありますので、バリスタ電圧の選定は、内部回路で一番耐圧が低い部品よりも、さらに低いものにすることが重要です。この設計の観点が抜けてしまうと、雷サージ試験は合格しているにも関わらず、市場では故障が多発してしまう恐れがあります。
次に電源フィルタを入れた場合の電圧波形について説明します。図3の実験回路は、電源フィルタを入れた場合の回路であり、オシロスコープ測定結果は電源フィルタ前後での電圧波形を示しています(印加電圧1kV)。電源フィルタ前は0.35kVで制限されていますが、電源フィルタ後は0.6kV近くまで上昇していることがわかります(この原因は電源フィルタのチョークコイルによるものです)。
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多くの方は、バリスタの挿入位置は「侵入経路の直近に入れておけばよい」と思われています(私も思っていました)。しかし、電源フィルタのような回路がある場合、電源フィルタ後にもバリスタを挿入することも考えなくてなりません。つまり、回路に合わせて最適な挿入位置を検討することが必要になります。雷サージ対策は「バリスタを入れるだけ」と考えていると、痛い目に合ってしまいますね。
最後に、雷サージ試験はこのような部屋でやっています。
もちろん規格に準じた雷サージ試験(IEC 61000-4-5)も行えますので、お気軽にお問合せください。
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EMC試験については こちら↓
落雷による電子機器の故障を防ぐために
門真EMCサイトの石橋です。
今年の夏は、ゲリラ豪雨や突然の夕立が多く、落雷が多発しています。
先週末には、都心で2時間に1000発以上の落雷があり、昨日も愛知県で7000発以上の落雷が観測されました。
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このような落雷によって、屋内外に設置された電子機器が故障するケースが後を絶ちません。この原因の多くは、直撃雷ではなく、誘導雷によるものです。
誘導雷とは、落雷時の電磁誘導により電力線等に誘導電流が発生し、周辺に影響を及ぼす現象です。この誘導雷は数km先で発生したものでも影響を受けると言われています。
特に日本は低圧配線の接地方式がTT接地であるため、例えば商品の筐体と保安器のアース線がそれぞれ別の箇所で接地されている(TT接地)と、アース線にサージ電流が流れた際に、それぞれの接地間に電位差が発生してしまいます。
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誘導雷による電子機器の故障は、回路内に電位差が発生することによる過電圧によるものです。そのため、雷サージ試験時にはこの電位差が発生する箇所を想定した試験を実施する必要があります。
雷の考え方については、以前にも記載しておりますので、是非参考にしてください。
- 雷サージから電気製品を守るために その一
- 雷サージから電気製品を守るために その二
プロダクト解析センターでは、今回のような雷による電子機器の故障についても、検証させていただきますので、是非お気軽にご相談ください。
雷サージから電気製品を守るために その一
EMCの稲田です。久しぶりの記事アップです。
梅雨が明けますと夏本番、EMCの視点では、太平洋側での雷が増える季節です。
雷による電気製品のトラブルはかなり古くからある問題ですが、近年ではさらに増加の傾向にあるようです。それには以下のような背景があると考えています。
1. 通信線を有する機器の増加
2. 製品の小型化による絶縁性能の低下
3. 日本の配電事情を考慮していない
まず、1についてですが、市場にて雷サージで電気製品が破壊する場合、ほぼ全てのケースでコモンモードの経路で雷サージが印加されたことが原因です。下図のように複数の機器が通信線で接続されたシステム商品では、機器の台数が増えるにつれコモンモードの経路が指数的に増えてしまいます。そして、雷サージによるトラブルを防ぐためには、すべてのコモンモードの経路に対して、配慮を行っておく必要があります。
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また、実績がある製品であっても、システムの組み合わせによって、雷サージの耐性が低下することも起こり得ます(下図)。さらに伝導エミッション用のコモンモードチョークコイルによって、コモンモードの共振が発生し、雷サージ電圧が上昇してしまうこともあります。

以上の理由から、システム機器では、設計の初期段階から雷サージに対する設計思想を決めておく必要があります。そして評価のステージでは、コモンモードの経路を考慮した評価が重要となります。
2、3については、次回に述べたいと思います。
雷サージから電気製品を守るために その二
EMCの稲田です。関西は例年より早く梅雨が明けました。いよいよ夏雷の季節です。
先日の記事で、システム機器ではコモンモードの雷サージ経路が増えると述べましたが、これは日本の低圧配線の接地方式がTT接地であることが主因です。商品の筐体や、保安器のアース線がそれぞれ別の箇所で接地(TT接地)されていると、アース線にサージ電流が流れた際、それぞれの接地間に電位差が発生してしまいます。
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一方、欧米などは一箇所で接地し、その接地点からアース線を送ってゆく方式(TN接地)のため、アース線にサージ電流が流れた際、システム全体の接地電位は上昇しますが、機器のポート間に発生する電位差は抑えられます。
国際規格のサージ試験法(IEC 61000-4-5)や、試験水準(IEC 61000-6-1など)は、欧米の配電形態をベースにしています。上記の要因により、国際規格の要求水準をクリアしたとしても、国内環境のサージストレスに対して不十分な場合があります。
国内向け商品の雷サージ試験規格としては、CIAJが発行している「雷過電圧に対する通信機器の保護ガイドライン(CES-Q007-1)」が、国内の雷サージ事情(コモンモードの経路、接地抵抗、試験レベルなど)を十分に考慮しており、お奨めします。
http://www.ciaj.or.jp/jp/category/kikaku/
先日の原稿を書いた数日後、篠山サイト付近で落雷があり、火報器とインターホンが故障しました。。。
何れの機器も複数箇所で接地されており、上記の条件にピタリと当てはまります。
CES-Q007-1をクリアした機器なら防げた可能性は高いのですが。
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