材料断面方向からのマッピング分析(TOF-SIMS)

TOF-SIMS分析は試料表面(~2nm)からの情報を取得することが可能です。また、イオンビームを 細く収束化させることで、高い空間分解能でのイメージ像を取得することが可能です。これらの特徴を活用し、試料の断面方向からマッピング分析を実施した事例をご紹介致します。

リチウムイオン電池 極板中のリチウムマッピング技術

TOF-SIMSにはアルカリ金属を高感度に検出できる特徴があります。このため、他の手法が苦手と するリチウムを高感度に検出することができます。このTOF-SIMSと独自の断面作製技術(不活性環境、冷却)を組み合わせることで、リチウムイオン電池極板中のリチウムをマッピング分析し、可視化することが可能になりました。

 円筒型電池の模式図

下図は充電前後の正極を断面方向からマッピング分析した結果です。正極中に存在するリチウムを断面方向から分析することで、充放電に寄与している二次粒子とそうでない二次粒子を区別することができ、充放電特性とミクロ構造との関係を紐づけることができます。同時に分析したフッ化リチウムの分布から、電解液の分解物が粒子の周囲に付着することにより、リチウムイオンの引き抜きが阻害されていることが示唆されました。

また、サイクル劣化試験後に電解液成分やリチウム化合物(酸化リチウム、炭酸リチウム、フッ化リチウム、電解液残渣物)の分布を可視化することで、サイクル劣化のメカニズム解明を加速させることができます。

正極断面 マッピング分析結果

電極断面の元素マッピング分析

こちらの電極は中心に芯となる電極があり、それを包む形で保護電極が存在しています。電気的特性の不良が生じたために、断面方向からのTOF-SIMS分析を行いました。良品において、芯電極には不純物であるナトリウム、カリウムが検出されていますが、保護電極では芯電極に比べて少ない量となっています。これに対して、特性不良品では保護電極からも高い強度でナトリウム、カリウムが検出されました。この結果をもとに、保護電極の成膜プロセスを調べたところ、不純物汚染が生じていたプロセスを見つけることができ、品質不良を改善することができました。

良品
特性不良品

電極全体の不純物量を調べただけでは不純物混入の要因を特定できませんでしたが、断面方向からのマッピング分析を実施することで、品質向上に寄与できました。

粉砕材料のマッピング分析

フッ素で表面処理した炭素粒子をプレス成形した試料、粉砕処理後にフッ素処理を行いプレス成形 した試料を準備しました。その際に試料中にフッ素がどのような分散状態となっているかをTOF-SIMSを用いてマッピング分析を行いました。粉砕していない試料では、フッ素が炭素粒子の周囲を覆うようにきれいに分布していることがわかりますが、粉砕後にフッ素処理した試料では炭素粒子が細かく砕けており、フッ素も分析面内から均一に検出されております。

フッ素処理後にプレス成形
粉砕処理後、フッ素処理を行いプレス成形

このような試料を試料表面から測定した場合では、フッ素が炭素粒子の周囲にコーティングされている様子を捉えることはできませんが、断面方向からマッピング分析することで、非常に有効なデータを取得することができます。特に粒子表面のコーティング層の可視化や処理前後での元素、あるいは分子の拡散イメージの可視化に有効です。また、SEM観察も同じ箇所を狙って計測することができますので、材料の微細な構造情報と元素分布情報を合わせて考察することが可能です。